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デジタル版・新聞

高尾義彦のニュースコラム

どうする将来のエネルギー選択

原子力発電所がまともに稼働していなくても、日本は、エネルギー不足に陥らずに、この夏を乗り切ったように見える。その一方で、地球温暖化の影響とみられる異常気象、自然災害が多発し、この地球に生きる我々人類は、将来の安全なエネルギーをどこに求めるのか、重要な選択の時期を迎えていることを実感した夏だった。

「カーボンニュートラル」。最近よく耳にする言葉で、二酸化炭素(CO2)排出を実質的にゼロとする目標の達成が地球温暖化防止の鍵を握ることは、次第に理解され始めた。だが、さてその実現の決意と可能性は、と問われると、なかなか一筋縄ではいかないことが分かる。身近なところで、故郷の徳島に住む高校同級の女性は、自宅近くの農地などが転用され太陽光発電の施設建設の計画が明らかになったため、集会などで反対の意思を表明し、メールなどでその情報を伝えてくれたが、自然破壊を懸念する住民の反対を押し切って、計画は進められているという。

最近、政府が明らかにしたエネルギー政策の中で、再生可能エネルギーの割合を現状(19年度で18%)の2倍に増やす新たな電源構成目標が示された。菅義偉首相が昨年10月に掲げた「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」(カーボンニュートラル)を実現するには、取りあえずこの目標達成が必要で、中でも太陽光発電の比重が高い。

経済産業省の試算で、2030年の時点での発電コストは、1キロワットアワーで計算すると、事業用の太陽光で8.2円から11.8円とされ、原子力の11.7円に比べて、電源別で最も安くなるという数字が示された。太陽光の発電コストが原子力を下回るのは初めて。原子力の場合、東京電力福島第一原発事故の教訓で安全対策の費用が大幅に増えたことが大きくコストを押し上げた。太陽光発電は、LNG火力、石炭火力も抑え、コスト面では最良のエネルギーと位置づけられた。

ところが、毎日新聞が全都道府県の実状を取材したところ、太陽光発電が全国で公害化している実態が表面化した。原子力発電に代わる主力電源として期待されているにも関わらず、実態は深刻だ。問題点として挙げられたのは、土砂災害が最も多く29府県、景観の悪化(28府県)、自然破壊(23府県)、パネル反射などの光害(17府県)と続き、急速に拡大してきた太陽光発電の陰の部分として、見過ごせない事態となっている。土砂災害は、熱海市で起きた土石流災害が典型的で、自然に人為的な手を加えることにより、思わぬ災害につながることを見せつけられた。

太陽光発電と並んで再生可能エネルギーの主役として期待されているのが風力発電だが、こちらも楽観的な見通しばかりとはいえない。

日本海に面する秋田県は、風力発電の先進地として知られ、三種町・釜谷浜海水浴場に隣接する海岸に高さ100メートルの陸上風力発電の風車18基が並ぶ。さらに目の前の日本海に、高さ200メートル級の風車数十基を設置する計画が進む。この町と、隣接する能代、男鹿両市沖の海域は、20年7月、洋上風力が優先整備される国の「促進区域」に指定された。促進区域は秋田、千葉、長崎県の5海域が指定され、特に秋田は3海域が対象となり、実現すれば、国内最大の「洋上風力銀座」になる。

経済産業省は、2045年には、全国で最大原発45基分に相当する風力発電規模を想定し、地元秋田の期待も高まる。能代市では、風力発電そのもののメリットに加え、能代港を北陸や北海道で想定される洋上風力事業の部品類集積地として活用する青写真を描き、「洋上風力のトップランナーに」との意気込みだ。しかし地元の漁業者からは、冬の味覚「ハタハタ」の漁獲量が発電機の振動などの影響で不漁にならないか、心配する声がある。こうした声を含め、環境への影響を心配する地元の同意が何よりも必要になる。

洋上風力発電の根本的な課題として、日本は遠浅の海が少なく、着床式の建設海域が限られ、海に浮かべる「浮体式」の量産化などコスト高の難点がある。風車メーカーや発電機の大型化競争で欧米勢に追いつけていない現状もある。さらに日本の風力発電開発は、主に北海道や東北、九州が有望だが、都市部の電力大消費地とつなぐ送電網の拡充も課題だ

太陽光発電に、風力、さらには地熱発電……。最近、目にした『超入門カーボンニュートラル』(夫馬賢治著、講談社+α新書)によれば、世界の金融業界が地球温暖化に強い危機感を抱いているという。日本銀行など各国の中央銀行の、そのまた「銀行」の役割を果たす「国際決済銀行」が昨年1月、「グリーンスワン(緑の白鳥)」というレポートを発表し、気候変動が巨大な金融危機を引き起こすリスクがある、と世界に警鐘を鳴らした、と同書には記述されている。世界のあらゆる企業が、カーボンニュートラルを目指さなければ生き残れないと技術開発や意識改革に取り組んでいる姿が報告され、今後の動きを注目したい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.09.02)

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