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デジタル版・新聞

ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】「紙」の新聞メディアが、ネット社会に生き残るために

 日本で新聞を購読する家庭が減少し始めて久しい。かつてはほとんどの家庭が新聞を購読し、全国紙と地方紙、あるいは経済専門紙との組み合わせなど複数の新聞を購読する家庭もあったが、現在は半数以上の家庭が新聞を購読していない。家庭で新聞を手に取る機会がないまま成長する子供が大半となっている。「紙」の新聞の消滅を危惧する懸念も指摘されるが、ネット社会に流れる情報の多くは、実は「紙」の新聞の取材記者たちが担っている現実を直視し、民主主義の基本となる健全な報道現場の存続を切望する。

 日本新聞協会によると、2023年現在で全国の新聞発行部数は28,590,486部、1世帯当たり0.49部で、5,000万部超の時代は2009年までだった。この15年程で半減に近い。1世帯当たり部数が1部を超えていたのは07年が最後だった。23年の世帯数は約5849万と15年前より600万ほど増えており、核家族化も一因となっている。

 地域別にみると、東京0.38、大阪0.45と大都市で世帯当たり読者が少ない。1世帯当たり0.7部を超えているのは山形、富山、福井、長野、鳥取、島根となっている。1950年代に中学に進学した際、両親と離れて徳島の祖父母の家で暮らすことになって、まず新聞の購読を申し込んだ想い出は、はるか彼方に過ぎ去った。

 新聞部数の急減は、インターネット上で展開されるニュースが大きな要因となっている。ヤフーなどが新聞社から提供を受けたニュースをネットで発信し始めた初期の頃、新聞社はニュース素材をほぼただ同然で提供し、この構造が新聞経営の首を絞めることになった。公正取引委員会は、新聞など報道機関が提供したニュースをネットに掲載するヤフーなどのプラットフォームを対象に昨年9月、調査報告書を公表して、報道機関に支払う対価が著しく安い場合は「独占禁止法上、問題になる」と警告した。

 最近は、新聞社とプラットフォームとの間で、利用料を見直す動きが報告されるようになり、経営面で新聞の存続を可能にする環境づくりが急務の課題となっている。購読料収入の激減に対応して、多くの新聞社は、自社ビルスペースの賃貸収入で経営を支えているのが現状で、朝日新聞社が有楽町に所有するマリオンなどが代表例となっている。

 「紙」の新聞の読者減を見据えて、電子新聞に活路を見出そうとする試みも見られる。米国ではニューヨーク・タイムズが早くから電子新聞の普及に力を注ぎ、有料読者数が1008万人に達したと発表している(202311月)。このうち941万人が電子版読者、パズルなどのデジタル読者だと説明し、27年の段階で1500万人を目指すという。

 日本では、日本経済新聞がこの分野で先行し、一定の成果を収めているが、経済情報に特化した情報発信が評価されているとみられ、一般の新聞は苦戦している。

 日本の新聞社は収入減に対応するため、高齢の社員を対象に早期退職を促す動きが全国紙で相次ぎ、人件費削減によって生き残りを図る戦略が目立つ。だがこうした戦略によって、地方取材網は大幅に手薄になっている。例えば能登半島地震などでは、現地に常駐する記者・カメラマンは極めて少なく、元日の発生以来、大阪本社や東京本社から取材陣が派遣され、日々の取材に対応している。

 取材の基本は「人」であり、日常の取材、人間の普段の生活に根差したニュースの取材が、従来に比べて人間味や情報の濃度などの点で読者の期待に十分応えられているか、OBとしても心配になる。

 ここで改めて新聞の存在意義は何か、原点に戻って考えてみると、第一に権力の監視であり、権力にとって不都合な事実を根気強く掘り起こして読者に伝え、健全な民主主義が機能する情報環境を整えることだと言いたい。

 記者としての経験を振り返ると、米国からの情報で捜査が始まったロッキード事件(1976年)で、田中角栄元首相が5億円の受託収賄罪で司法の裁きを受けたドラマを現認した。米国では直前に、民主党本部をCIA工作員が盗聴したウォーターゲート事件(1972年)が表面化し、史上初めて大統領が辞任に追い込まれた。捜査過程でワシントン・ポストの2人の記者が活躍、「調査報道」の概念がもたらされ、情報源として「ディープスロート」の存在も注目された。

 ロッキード事件では、日本の報道機関も、独自に真実を探ろうとする試みが続いた。事件後も、「調査報道」を目的とする取材班が組織され、チャレンジの時代が続いた。報道の意義に目を開かされた体験だった。

 昨年来、自民党を揺るがせている政治資金パーティーの裏金問題は「しんぶん赤旗」が安倍派を中心とした政治団体の収支報告書を丹念に調べて「不記載」の事実を調査報道し、学者らが告発した。

 最近、新聞記者は記者会見などで厳しく追及する姿が見られずおとなし過ぎるとの批判を耳にする。国民、読者の期待に応えることが「紙」の新聞が永続的に生き残るためのキイになると自覚したい。

(日刊サン 2024.3.27)

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』を自費出版。


 

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