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デジタル版・新聞

高尾義彦のニュースコラム

核兵器禁止条約発効、日本はどうする?

 毎月、送られてくる日本原水爆被害者団体協議会の機関紙「被団協」新年号は、フロントページ全体に、50か国の国旗をカラーであしらっている。これらは、国際連合で採択された核兵器禁止条約を批准した国々で、規定の50か国に達したことにより、条約はこの1月22日に発効する。

 最初に掲げられているセントキッツ・ネイビス連邦は、同紙のコラムにも取り上げられているが、名も知らぬ西インド諸島の遠い国だ。面積は沖縄・西表島より小さい261平方キロで、人口は6万人。アンティグア・ハーブーダ、セントビンセント・グレナディーンなど耳慣れない国名もある。

 太平洋反核国際会議の取材で筆者が1980年代に訪れた南太平洋のバヌアツ、同じころ1週間ほど滞在した南アフリカ共和国や、その南アに包み込まれるような世界最南の内陸国、レソトの国旗もある。一つ一つの国に住む人々が、核兵器禁止を目指し強い意志を表明していることに、感動した。50番目は昨年10月24日のホンジュラスで、条約はその90日後に発効する規定だ。その後、西アフリカ・ベナン共和国が批准し、20年末で批准国・地域は51になった。

 条約は2017年7月7日に国連総会で採択され、条約交渉会議では賛成122、反対1、棄権1の結果だった。米国など核兵器保有国は会議に参加せず、日本やNATO加盟国も不参加だった。ストックホルム国際平和研究所の調査だと、世界の核兵器は2020年1月現在で米国5800、ロシア6375、中国320、フランス290、英国215、パキスタン160、インド150、イスラエル90で、計1万3400発。他に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が30~40発を保有していると推定されている。これら核保有国で条約を批准した国はない。

 条約が国際的な法規範として発効する事態を迎え、人類を何十回も絶滅させる可能性がある「悪魔の脅威」の存在をどのようにして廃絶させるのか。被爆国日本にとって重い課題だが、政治家はもとより、個人レベルでも、明るい未来を描き、実現する方法を見出す努力が求められる。

 日本政府は「日本は唯一の戦争被爆国で、政府は条約が目指す核兵器廃絶という目標を共有している。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発は、日本及び国際社会の平和と安定に対する重大かつ差し迫った脅威で、日米同盟の下で米国の核抑止力を維持することが必要」と表明。「核兵器保有国や核兵器禁止条約支持国を含む国際社会における橋渡し役」の立場を強調している。

 条約が採択された直後の2017年8月9日、長崎を訪れた安倍首相(当時)に、被爆者代表は「あなたは私たちを見捨てるのですか」と迫った。首相は広島でも長崎でも、平和祈念式典の挨拶で、一度も条約に言及することはなかった。 

  条約採択を後押ししてノーベル平和賞を受けた国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)では、被爆者たちの活動が重要な役割を果たしたことが高く評価されたが、被爆者たちの願いは日本政府に受け入れられないままに、被爆後75年の時間が過ぎた。

 第2回国連軍縮特別総会(1982年)で原爆の被害と核兵器廃絶を訴えた長崎の山口仙二さんを取材したこと、やはり被爆の惨状を訴え続けた長崎の谷口稜曄さんに何度か話を聞いたことが思い出される。二人とも既に故人だが、広島の被爆者運動の先頭に立つ坪井直さん(95)は、米国の大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏と握手、いまも「核兵器がゼロになるまで諦めはしません。ネバーギブアップ!」(毎日新聞20年12月29日付「75年 核なき世界はまだか」)と語り続ける。

 政治スケジュールに目を転じると、核拡散防止条約(NPT)再検討会議が8月に開催される。1月20日に米国大統領に就任予定のバイデン氏率いる米政府がどのような態度を示すか。米ロ間で唯一残された核軍縮の枠組みである新戦略兵器削減交渉(新START)は2月に期限を迎えるが、延長合意が可能かどうか、核兵器禁止の理想には程遠いが、行方が気になる。

 日本政府の動向をみると、北朝鮮のミサイルを意識して秋田、山口に配備予定だった陸上配備型イージス・アショア2基を断念した代わりに、イージス艦2隻の建造が計画されている。詳細は明示されていないが、30年間の費用約7千億円とも指摘される。これとは別に、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンドオフ能力」を持つ長射程ミサイルを新年度から5年かけて開発するため335億円を投入する計画も明らかにされた。射程1000キロ近く、北朝鮮やロシアを想定し、専守防衛の原則逸脱との批判も出ている。3月で期限が切れる米軍駐留経費負担(HNS)、いわゆる「思いやり予算」(2020年度1993億円)も米側と交渉中で、新年度の防衛予算案には過去最高を更新する巨額が計上されている。

 こうした動きをみると、核兵器廃絶への道のりはとても厳しいが、政府は本当に国民を守るための政策を選択しようとしているのか、国民は監視を強めなければならない。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.01.13)

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