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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

天皇制度の将来を考える年に

世界は新しい年を迎える。年数表記にあたって、2022年と西暦使用が自然な感覚になっているが、昭和、平成、令和を生きてきて、天皇制度と結びついた日本独特の年号の存在を実感し、ちょっと立ち止まって、どのような将来像がふさわしいのか、天皇制について考えてみたい。2021年には、天皇陛下の長女、愛子さまが20歳の誕生日を迎え、秋篠宮殿下の長女、眞子さんが結婚により皇籍を離れ、皇室にとって重要な出来事が続いた。国民の関心も高まる中、課題となっている女性天皇の是非に、正面から冷静な議論を願う。

皇室のあり方を議論してきた政府の有識者会議(座長・清家篤元慶應義塾長)は、年の瀬も押し詰まった12月22日、最終的な報告書を岸田文雄首相に手渡した。3月以来、13回の会議を重ねた結果、皇族数が減少している現実を踏まえ、女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子が養子縁組して皇籍に復帰する2案を軸に最終答申をまとめた。女性天皇論の是非や母方の血筋のみがつながる女系天皇の課題には踏み込まなかった。会議では、本質的な議論の手前に枠を設けて皇族数の確保策に焦点を絞った形だ。

国会は、上皇の天皇退位を実現した2017年6月の皇室典範特例法成立時に、付帯決議として安定的な皇位継承や女性宮家創設について速やかな検討を求めた。しかし、有識者会議は「皇位継承の議論は機が熟していない」との判断で、「次のステップ」と位置づけた。最終答申を受けて政府は、年明けにも国会に法律改正案など方針を提示するが、このままでは女性天皇論の重要な課題に真摯に向き合わず、先送りされる懸念が強まることになる。

皇位継承をめぐる政治の取り組みを振り返ってみると、秋篠宮の長男で15歳になる悠仁さまの誕生前には、皇位の安定的継承をめぐって真剣な議論が行われた。小泉純一郎内閣の下で「皇室典範に関する有識者会議」(座長・吉川弘之元東大総長)が2004年に設置され、2005年12月に報告書をまとめた。

いま、その報告書を読んでみると、今回の答申と比べて、格調の高さに驚かされる。「我が国の将来を考えると、皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠であり、広範な国民の賛同を得られるとの認識で一致するに至った」と、明確に女性天皇実現の将来像を提案している。報告書は「古来続いてきた男系継承の重さや伝統に対する国民の様々な思いを認識しつつ、議論を重ねた」と述べ、国民の意識にも配慮を示している。

当時の小泉首相は06年1月、皇室典範改正案を国会に提出する方針を所信表明で明らかにしたが、悠仁さまの懐妊・誕生と小泉内閣の退陣により、実現しなかった。後継の安倍晋三首相は女性天皇に否定的、消極的な見解を持つといわれ、皇位の安定的継承は危うい綱渡りに似ているという状況はそれほど改善されたわけではないのに、小泉首相の所信は引き継がれず、報告書はお蔵入りの道をたどった。

一連の経過に詳しい京都産業大学の所功・名誉教授はNHKの取材に「決して十分とは言えない」と述べたうえで、「今回の案が手がかりとなって、女性天皇、女系天皇の問題も議論せざるを得なくなると思うが、今回はやむをえない。愛子さまや悠仁さまのご結婚やその後のことがリアルに話題に上るような段階で、もう一度検討すればいい」とコメントしている。

今後、この問題を論議するにあたって、国民の間には、どんな皇室観が存在するのだろうか、ということが気になる。絶えず戦争責任の問題が議論された昭和天皇に続き、平成の時代に、象徴としての新しい天皇像が確立されたと筆者は受け止めている。上皇夫妻は、天皇として第二次世界大戦の戦跡をたどり戦死者に慰霊の気持ちを捧げ、東日本大震災など自然災害の現場に足を運んで犠牲者を悼み被災者と悲しみをともにした。

新しい年の皇居一般参賀は2021年に続き取りやめになったが、筆者は平成最後の年に、生まれて初めて新年参賀の列に加わった。日本が再び戦争への道を歩みかねないとの危惧を感じさせた保守政治に、天皇が一定の意思を表示した、と自分なりに受け止めたのが、参賀の動機だった。

ここ数年、眞子さんと小室圭さんの結婚をめぐって週刊誌を中心とした虚実取り混ぜての報道が過熱気味だった。秋篠宮が誕生日にあたって、一部報道に対する反論の道を模索する発言をしたり、皇室としての情報公開の在り方が論議され、令和の皇室に関心が集まる。天皇がこれからどのような天皇像を築いてゆくかも、国民と皇室の関係を考えるうえで参考になる。ティアラを身に着け成年皇族の儀式に登場した愛子さまの存在感に、女性天皇の出現を予感する声も、筆者の周囲では聞かれた。

今回の答申は、福沢諭吉の「帝室は政治社外のものなり」という言葉で結ばれている。政治の都合ではなく、真に国民の意思に沿った結論を期待したい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2022.1.1)

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