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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】日大事件後、どうなる 私立大学のガバナンス

巨額脱税で起訴された元日本大学理事長、田中英寿被告(75)の初公判が東京地裁で15日に指定され、日本大学を揺るがした事件は法廷での審理に入った。事件を機に私立大学のガバナンス(経営統治)改革を求める世論が強まる中で、政府・文部科学省が意図した改革の方向性に異論が噴出、見通しは不透明なままで新学期を迎えそうな状況だ。

日大事件は、元理事らの背任事件で始まった。東京地検特捜部は昨年9月、田中理事長(当時)の自宅や理事長室を家宅捜索し、1億円を超える現金を押収したが、最初に背任容疑で逮捕されたのは元日大理事の井ノ口忠男被告と医療法人「錦秀会」(大阪市)の理事長だった藪本雅巳被告の側近二人だった(昨年10月)。二人は日大板橋病院の建て替えや医療機器の納入をめぐって、日大の資金を藪本被告側の会社に流すなど不当な手段で日大に約4億2千万円の損害を与えたとして起訴された。

13年間にわたってトップの座にあった田中被告の起訴事実は、二人や取引業者から受け取ったリベート約1億1800万円の収入を申告せず、約5,200万円を脱税したとされる。田中被告は12月1日の臨時理事会で理事長辞任を承認された。大学側は田中被告側に損害賠償を求める方針も明らかにし、ようやく「田中ワンマン体制」からの脱却を宣言しているが、ここに至る動きは世間の納得を得られるものではなかった。

日大では2018年にアメ・フット部の悪質タックル問題が発生したが、田中理事長体制下で、体質改革などに十分に取り組んだとはいえなかった。それ以前の13年に、日大では総長制を廃止して、理事長に権限を集約しトップと側近による大学支配の体制が出来上がった。アメ・フット部の不祥事でも会見を開かず不透明な体質が指摘されていた。ほぼ同じ時期に、東京医科大学の不正入試も発覚し、この時点から大学のガバナンス改革が政府や自民党の課題として浮上し、日大事件はこの動きに拍車をかけた。

文部科学省が設置した「学校法人ガバナンス改革会議」は昨年12月3日に報告書をまとめた。文科省は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の閣議決定に基づき、年内決着を目指したが、私立大学側などから異論が出た。

改革会議は弁護士や公認会計士ら私立大学関係者を含まないメンバーで構成され、大学経営上の重要事項を決める最高議決機関を、教職員など学内関係者を中心とした「理事会」から、学外者だけで構成する「評議員会」に移すことを提案した。日大の場合、理事会が教授会などから権限を取り上げ、理事会専制的な体質が露骨になっていたため、理事会の独走による不祥事を防ぐ改革の狙いが込められたが、私学側が反発した。

日本私立大学団体連合会と日本私立短期大学協会は連名で声明を発表し、「学生と日ごろ接していない学外評議員だけでは、教育研究の責任は取れない」と報告書を批判した。

文科省では改革会議以前に、現役の私学関係者もメンバーに入れて有識者会議を設置し、昨年3月には提言をまとめていた。しかし、これに自民党有力者から強い異論が出て、新たにガバナンス改革会議を設置し審議を進めてきたことから、私学側の同意を得られない報告書となり、結局は、文部省が1月に私学関係者も加えた新たな会議を設けて、議論をやり直す作業が始まった。

筆者が学生だった1960年代から70年代初頭にかけて、大学闘争が多くの大学に広がり、国立と私立の違いはあるが、教授会による自治の尊重や産学協同を認めない主張が大きなテーマになった。日大でも裏口入学や20億円を超える使途不明金が明らかになり、学生たちは日大闘争を展開、大学側に改革を迫った。今回の事件に接し、不透明な日大の体質は半世紀近くが過ぎても底流に残っていたのでは、と感じた。

現在展開されているガバナンス改革の議論は、当時と比べて様変わりで、日大闘争のような学生の怒りは表面化していない。筆者は現在、ある奨学財団の理事を務め、新年度から奨学金支給を希望する学生の審査にあたったが、私立大学の場合、年間の学費は100万円から150万円のところが多く、負担は大きい。日大では事件が明るみに出た後、授業料が適正に使用されていないとして返還を求める動きもあったが、大学側はこれに応じていない。

今回の事件を機に、日本私立学校振興・共済事業団は日大に対する2021年度の私学助成金を全額不交付とすることを決めた。20年度の助成金は早稲田大学に次いで多い約90億円で、日大は「不交付の場合も授業料値上げはしない」と表明している。

余談だが田中元理事長が相撲部出身であることから、学生時代に初代若乃花の長女の家庭教師だったことを想い出した。杉並区にあった二子山部屋の土俵はその後、日大相撲部が使用しているという。近くにある田中夫人経営のちゃんこ屋を舞台に「ごっつぁん」という体質改革も含め、学生を主役とする議論を願う。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2022.2.16)

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