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デジタル版・新聞

高尾義彦のニュースコラム

大丈夫か? デジタル庁9月スタート

デジタル庁の9月発足に向けて、改革関連63法案が5月12日、参院本会議で可決され、成立した。菅義偉首相が昨年9月の自民党総裁選で公約に掲げ、〝拙速〟と批判されるほど国会審議に十分な時間もかけないままのスピードでスタートラインに立ったが、新型ウイルスへの対応などを見ていると、期待より不安が大きい。

65歳以上の高齢者に対するワクチン接種を7月中に終わらせたいーー。東京五輪・パラリンピックの開催を視野に入れた菅首相の号令が、全国の自治体に混乱としわ寄せを強いているように見えて仕方がない。筆者は住まいのある東京中央区で5月中に2回の接種予約を済ませ、手続きは比較的スムーズだったが、新聞などの報道を見ていると、ITに不慣れな行政のほころびが国民に犠牲を強いた事例が報告されている。

例えば政府が自衛隊を動員して大規模接種会場を設けたものの、自治体が用意した接種会場との二重申し込みがチェックできないお粗末な立ち上がりだった。個々の自治体でも、IT以前に、電話申し込みに長時間かかり、疲労困憊している高齢者の怒りの様子が散見された。

デジタル改革法案は、こうした状況を背景に成立したが、この1年余の政府の対応をみていると、「誰もがデジタル化の恩恵を最大限に受けることが出来る世界最先端のデジタル社会を目指す」と胸を張る菅首相の言葉を素直に信じることは出来ない。

新型ウイルス感染者との接触を通知するアプリ「COCOAココア」の問題を想い起してみよう。厚生労働省は昨年5月に民間会社にアプリ開発と運用を委託し、受注した会社は別の3社に再委託、うち1社はさらに2社に再々委託した。アプリは6月に稼働、改修版を9月に発表した時点で不具合が起きた。接触アプリが機能せず、今年2月の修正まで4か月間、空白の時間が過ぎた。途中で利用者から指摘があったのに放置したままで、4月の報告書では、スタート時から不具合確認のテストをしていなかったことなど厚生労働省の「知識不足」が明るみに出た。アプリの利用者の一人として、あきれてものが言えない。各省庁にデジタルの専門知識が欠けていることが明るみに出た。

菅首相自身が「デジタル化の遅れなど様々な課題を浮き彫りにした」と認めて、それゆえのデジタル改革なのだが、それではデジタル庁の発足が、本当に国民の利益になるのか、慎重に見極める必要がある。

政府が、国民の利便につながると強調する改革の一つが、預貯金口座の登録、管理に関する2法案で、マイナンバーに紐づけた口座登録により、公的な給付金の受け取りがスムーズに進むほか、災害や相続時の照会がスピーディーに可能になるという点だ。デジタル社会形成関係整備法案では、行政手続きの押印廃止やマイナンバーカードをスマホに搭載することにより、転出届の情報など行政手続きが簡潔に出来るという。

しかし預金口座のマイナンバー紐づけは、国民の財産を政府が把握しやすくなり脱税などの監視という国側の要望に生かされる側面が多いとの疑念もある。国や自治体が国民の情報を把握しやすくなることによって、それがどこまで国民の利益として反映されるのか、説明不足としか言いようがない。

さらに、個人情報の取り扱いそのものに、大きな疑念が指摘されている。個人情報保護の原則が後退するとの指摘もある。社会的身分、思想信条、犯歴、犯罪被害などの「センシティブ情報」について、多くの地方自治体は収集を原則禁止して、個人情報保護の姿勢を貫いてきたが、国のルールではこうした制限がなくなり、政府、行政の監視対象になるデータが圧倒的に増える。

NPО法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、デジタル化は「監視できるデータ」が増えることを意味し、本人の同意なく目的外でも個人情報が政府に吸い上げられ、監視が強まると警告する。つまり「個人情報に対する規制緩和」で、政府は個人情報保護委員会の監督機能を強化すると強調するが、内閣府の外局としてスタッフ約150人の組織で、独立して個人情報保護を徹底できるのか、心配は残る。

個人情報保護に関する自治体のルールについて、平井卓也デジタル改革相は「いったんリセットする」と発言している。個人が自分の情報を主体的にコントロールできるようにするとの趣旨で、昨年12月に閣議決定された「デジタル社会を形成するための10項目の基本原則」は結局、法案には盛り込まれなかった。

デジタル庁は500人体制で発足し、うち120人程度はIT企業など民間の人材を充てるという。人事院は、国家公務員の2022年度採用試験から、試験科目に「デジタル区分」を追加、デジタル政策や情報処理技術に精通した人材を登用するという。いかにも付焼刃的な対応で、デジタル化への対応力の強化という技術的レベルにとどまらず、真の国民の利益を、スタートに当たって再認識してほしい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.06.02)

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