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高尾義彦のニュースコラム

本気で、原発に代わる 新たなエネルギー政策を

東京電力福島第一原発事故から10年の3月11日を機に、「原発廃絶」を掲げて長く地道な活動を続ける2人の原子力学者の著書を読み、「原発ゼロ」を前提に、新たなエネルギー政策を構築しなければ、人類が生き延びる道はないと切実に考えるようになった。

2冊の著書は立命館大学名誉教授、安斎育郎著『私の反原発人生「福島プロジェクト」の足跡』(かもがわ出版)と元京都大学原子炉実験所助教、小出裕章著『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)だ。

安斎さんは東京大学原子力工学科一期生で、放射線防護学を専門とし「原子炉施設の災害防止」を卒論のテーマとした。周囲が原発推進の道を歩む中で、原発にブレーキをかける側に回り、原子力ムラや大学の組織の中でハラスメントを受けてきた。それでも「反原発」の姿勢を変えず立命館大学で実績を積み、1992年には大学に国際平和ミュージアムを創設した。筆者は1980年代に反核・平和運動を取材した時期に世話になり、後にミュージアム見学に京都まで足を運んだ。

小出さんは、原子力の平和利用に夢を抱いて東北大学工学部原子核工学科に入学したが、1970年に女川原発反対運動を機に「原発廃絶」に転換、京都大学退官後も、原発を推進する政府や電力会社の「嘘」を告発してきた。

著書をベースに、日本のエネルギー政策の変遷をたどると、日米安保と同様、米国の支配下で物事が進められ、いまもその構造が維持されていると実感する。第二次世界大戦後の占領政策で米国は「一国を支配するには食糧とエネルギーを支配すればいい」とGHQを通じて電力会社を9地域に分割、それまでの主流だった水力発電から、石炭を使った火力発電に重心を移し、さらに燃料は石油への転換が進められて、米国の国際石油資本への依存度が高まる。原発も米国で開発された軽水炉を導入し、事故が起きた場合の巨額の賠償責任は国家の庇護がなければ成り立たないため、米国にならって、国家と電力資本の共同事業とする政策がとられ、「原子力ムラ」が形成された。原発立地を受け入れる地方自治体には特別交付金制度の甘い餌が用意された。根拠のない安全神話の中で起きた事故が「フクシマ」だった。

「フクシマ」以後、エネルギー政策はどのように変わろうとしているのか。ドイツは「フクシマ」直後に「2022年末までの脱原発」を閣議決定した。メルケル首相は原発推進派だったが、「フクシマ」を深刻に受け止め、11年当時17基あった原発のうち11基を停止し、発電量に占める原子力の割合は10年の22%から11%に引き下げ、風力など再生エネルギーが17%から45%に増えた。原発大国フランスは最古の原発を廃炉とする方針を打ち出し、15年には原発依存率を25年までに70%超から50%に引き下げる法律を策定(後に引き下げ時期を10年先送り)したが、再処理工場などの需要が激減し、原子力産業は暗い影に覆われている。

日本が追随してきた米国はスリーマイル原発事故(1979年)以降、原子力から撤退する方向に舵を切り、「フクシマ」以後も5基の原発廃止を決めている。ところが日本は、2013年、当時の安倍首相がトルコを訪問、原発建設の協力協定を結ぶなど原発売込みの姿勢を変えなかった。原発建設の生産ラインを失っている米国の原子力産業は、パテント(特許)で稼ぐために日本に期待し、「米国の下僕である安倍前首相らがトップセールスをかけた」と小出さんは指摘する。安倍前首相は2013年9月、アルゼンチンで開催された国際オリンピック委員会で五輪招致のための演説に臨み、「フクシマの状況はアンダーコントロールされている」と発言したが、いまだに廃炉の見通しも立たず大量の放射能汚染水を抱えた「フクシマ」の過酷な現実を覆い隠した罪深い戯言だった。

日本の原発は「フクシマ」後、54基すべてが運転停止され、再稼働9基、21基が廃炉にされ、24基が運転停止のままだ。日本政府は2050年までに、温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を宣言した(菅義偉首相所信表明)。しかし30年の目標でも、エネルギーの20%以上を原発に依存する姿勢は変えていない。洋上風力による発電能力を40年に原発45基分に相当する最大4500万キロワットとする目標が2020年に官民協議会で決定しているが、この目標に向けて電力業界がどのように動くのか、心もとない。

それどころか東京電力柏崎刈羽原発について原子力規制委員会は3月24日、セキュリティー対策に致命的な不備があったとして再稼働を禁じる命令を出す方針を決めた。東京電力が「フクシマ」の反省をどこまで深刻に受け止めているのか、大きな疑念を抱かせた。

著書で2人は原子力の世界に身を置きながら「フクシマ」を防げなかった責任を詫びている。責任は2人にあるわけではないが、この真摯な発想、心情を、新たなエネルギー政策の構築に携わる政治家、科学者、電力関係者は噛みしめてほしい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.04.07)

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