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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】天皇誕生日に、改めて安定的な皇位継承を考える

 天皇陛下は2月23日、64歳の誕生日を迎え、5月には在位6年目に入る。天皇ご夫妻の長女愛子さん(22)は学習院大学を卒業して4月から日本赤十字社の嘱託職員として社会生活を始める。皇室をめぐる話題は多いが、現時点で実質的に皇位継承の資格があるのは、秋篠宮殿下の長男悠仁さま(17)一人という状態に変わりはない。安定的な皇位継承に向けて課題解決の宿題を突きつけられている国会の動きは鈍く、あまりにも危機感がなさすぎると感じるのは筆者だけだろうか。

 天皇は誕生日に合わせて記者会見に臨み、能登半島地震について「深く心を痛めています。復旧・復興が順調に進んでいくことを心から願っています」と述べ、皇后雅子さまとともに被災地を訪問する意向を示した。

 会見の直後に、郷里徳島の知人からメールが届いた。メールには、会見の動画が添えられ、述べられた言葉に感動した気持ちを伝えてきた。その言葉は、「能登半島地震の被災地では、日本の優れた水処理技術とAIを結び付けた自律制御型のポータブル水再生システムの活用により、入浴や手洗いのサービスが提供され、厳しい状況にある被災者の方々の助けとなっています」という内容だった。

 「ポータブル水再生システム」は、知人の子息、前田瑶介さんが東京大学在学中に立ち上げたユニークな会社が実用化した。WOTA()という企業名は、会見では触れられていないが、循環型の水再生システムとして能登半島の被災地に投入され、前田さん自身も現地に入って被災者を支援してきた。天皇がこうした活動を視野に入れて会見で言及したことに、知人は感動したようだ

 皇室とは、日本に住む我々にとってどのような存在なのか。第二次世界大戦の敗戦を教訓として、天皇は国民統合の象徴として戦後の日本社会に定着してきた。国民は天皇制を必要としているのかどうか議論もある中で、天皇の言動が国民にどのように受け止められているか、前田さんの話は一つの参考になった。

 天皇制度と国民の意識について、歴史を振り返ってみると、昭和天皇の時代は、絶えず第二次世界大戦の戦争責任の問題が議論された。平成の時代になって、上皇夫妻は天皇として沖縄など大戦の戦跡をたどって、戦死者に慰霊の気持ちを捧げた。さらに、東日本大震災など自然災害の現場にも足を運んで犠牲者を悼み、被災者と悲しみをともにした。こうした活動を通じて、平成の時代に象徴としての天皇の新たなイメージが、国民の間に醸成されたのではないだろうか。

 安定的な皇位継承の課題を考える場合、国民の意識が重要な要素となるが、少なくとも国民の多くは皇室の存在を否定しているとは言えない。長い日本の歴史の中でさまざまな形をとりながら存続してきた天皇制が途絶えることは、大半の日本人にとって本意ではないと考えたい。

 だとすれば、議論の場として設定されている国会の責任は重いが、現状はどうか。改めて議論の経過をみると、小泉純一郎内閣当時、「皇室典範に関する有識者会議」(座長・吉川弘之元東大総長)が200512月に報告書をまとめた。「我が国の将来を考えると、皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」と、女性天皇実現の将来像を提案している。提案を受けて小泉首相は皇室典範の改正案を国会に提出する意向を固めたが、悠仁さまの誕生による安心感、認識の変化や自身の退陣で、改正案の提案は見送られた。

 この後、天皇退位を経て、皇室のあり方を議論してきた政府の有識者会議(座長・清家篤元慶應義塾長)は、2021年、最終的な報告書を岸田文雄首相に手渡した。皇族数減少の現実を踏まえ、女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の男系男子が養子縁組して皇籍に復帰する2案を軸に最終答申をまとめた。女性天皇論の是非や母方の血筋のみがつながる女系天皇の課題には踏み込まず、「吉川提案」から大幅に後退した内容だった。

 岸田首相は翌221月、国会にこの報告書を説明し、議論の開始を求めた。しかしその後の動きをみると、自民党をはじめとする各党の対応には積極性が感じられない。もともと今回の報告書は「女性天皇」の可能性を検討するものではなく、皇族数の確保に論点が絞られ、根本的解決には程遠い。

 小泉政権当時に「男女を問わず長子優先」を提案した吉川弘之さん(90)は今年に入って毎日新聞紙上で「国会で議論を」と改めて原点に戻っての議論を求めた。

 毎日新聞が22年1月に公表した世論調査によると、天皇の皇位継承について「男子がいない場合のみ、女子の継承を認めるべきだ」(41%)と「男女にかかわらず、天皇の第1子の継承を優先すべきだ」(35%)を合わせて回答者の7割超が女性天皇を容認している。

 自民党パーティー券の裏金問題ばかりが国会で論議される事態は、国民にとって不幸と言わざるを得ない。

(日刊サン 2024.3.13)

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』を自費出版。


 

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