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デジタル版・新聞

高尾義彦のニュースコラム

「桜を見る会」疑惑と検察審査会

衆院議員総選挙を控え、自民党の〝顔〟が変わった。4人が名乗りを上げた総裁選を経て、菅義偉首相の後任として、4日、岸田文雄元自民党政調会長(64)が第100代首相に選ばれた。菅政権で最低を記録した内閣支持率の上昇を期待して、自民党は政権維持を目指すことになるが、一連の経過を通じて安倍政権以来、政治への信頼を揺るがせた問題が置き去りにされようとしていることに、強い憤りと悲しみを覚える。忘れてはならないのは、「桜疑惑」であり、「モリカケ」の問題だと指摘しておきたい。

おさらいをしておくと、安倍晋三後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭の会計処理をめぐって、東京地検特捜部は安倍元首相に対する公職選挙法違反の刑事告発について、昨年12月24日、元首相を不起訴処分とし、公設第一秘書を政治資金規正法違反で略式起訴した。この処分に対して検察審査会は7月30日、「不起訴不当」と議決し、改めて捜査が続けられることになった。

検察審査会は「疑惑が生じた際にはきちんと説明責任を果たすべきだ」と異例の付言で指摘した。この指摘は、安倍・菅政権がさまざまな疑惑について、国民に対する説明責任を果たさず、国政の劣化を招いてきた事実を真正面から取り上げた。特捜部は徹底した捜査を求められることになり、政権が交代しても、まだまだ終わった事件というわけにはかない。

個人的体験だが、1980年代に検察審査会審査員を務めたことがある。当時、府中市に住んでいて抽選で選ばれ、東京地裁八王子支部に事務局があった審査会に半年間、通った。審査を申し立てられた事案は、交通事故に伴う案件など軽微なものが多く、「不起訴不当」などの結論を出したケースはなかったが、日本の司法制度の中で、当時は国民が参加する唯一の制度であり、新聞記者として司法の取材を担当していたこともあり、民主主義の在り方を考える上で貴重な体験となった。その後に密着して取材した中坊公平・元日本弁護士会会長らの提唱で、裁判員裁判制度が実現し、司法への国民参加が前進した。「桜を見る会」をめぐる議決も、三権分立の原則や日本の民主主義について考える機会として位置付ける必要がある。

前夜祭に関して法律的争点になったのは、2016年から19年の4年間で参加者の会費収入約1157万円とホテルへの支払額約1865万円の差額約708万円を元首相側が負担していた点だ。この差額分が、公職選挙法で禁じられた有権者への寄付にあたるかどうか、が捜査の対象となった。特捜部は約800人が会費5,000円を支払って参加した19年の前夜祭について、有権者約30人から事情聴取し、有権者には寄付を受けたという認識は無かった、と結論づけ、元首相の刑事責任を否定した。

検察審査会は、特捜部が家宅捜索を実施せず、関連のメールなどの資料も入手しておらず、捜査が十分になされていないとして、特捜部にも注文をつけている。特捜部が再捜査の結果、安倍元首相の刑事責任を問えるか、見通しは不透明だが、議決では政治資金の処理について元首相の監督責任にも言及するなど、過去の議決にない厳しい意見が盛り込まれた点が注目される。

政治家などが関係した事件で、最近の検察審査会の動きをみると、安倍政権当時、検事総長就任への道を開く定年延長が決定された黒川弘務元検事長が新聞記者と賭け麻雀をした事案がある。東京地検は黒川元検事長を起訴猶予としたが、検察審査会の起訴を求める議決を受けて、再捜査して21年3月、略式起訴した(罰金20万円)。菅原一秀元経済産業相の場合は、有権者に約30万円の違法な寄付をしたとして、検察審査会の2度目の議決を受けて、東京地検が21年6月、公職選挙法違反で略式起訴した(罰金40万円など)。検察審査会が民意を反映して機能した事例として評価される。

自民党政権にトゲのように深く刺さって真相解明が滞っている問題に、学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題がある。安倍元首相夫人の名前が取りざたされ、改ざん問題を苦に自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54歳)の妻雅子さん(50)の求めで「赤木ファイル」が公開されている。

立憲民主党は森友学園問題などの疑惑解明を総選挙の争点の一つとする方針を表明しているが、岸田新首相をはじめ総裁選に立候補した河野太郎前行政改革担当相(58)、高市早苗元総務相(60)、野田聖子前幹事長代行(61)は、疑惑の再調査などに消極的な発言が目立つ。

安倍・菅政権では、その政治理念を国民に真剣に説明しない政治が続いてきた。国民としては、こうした自民党の政権維持を容認するのか、国民の手に政治を取り戻せるのか、総選挙の一票で選択をする機会が近づいている。コロナ対策、皇位の安定的継承など課題も多い。

モリ・カケも桜・河井もまだ消せぬ 箕面 ツトム

これは毎日新聞の「中畑万能川柳」に総裁選当日、掲載された一句だ。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.10.06)

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