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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】「目白御殿」炎上、自民党裏金事件捜査のさなかに

 年明け間もない18日に、東京・目白の田中角栄元首相邸で火災が発生し、木造2階建て住居など800平方メートルを焼失した。ロッキード事件で元首相が5億円受託収賄罪の被告となって以来、「目白御殿」を見つめ続けてきたジャーナリストとして、ショッキングな出来事だった。自民党安倍派を中心としたパーティー券をめぐる裏金事件で東京地検特捜部の捜査が本格化していた時期に重なり、改めて「政治とカネ」に思いをめぐらす機会になった。

 河彦の名前で一日一句、俳句を発信している。女優中村メイコさんの89歳の訃報を聞いて、「メイコさん 元日にいつも 会っていた」とX(旧ツイッター)につぶやいたその日に、田中邸火災のニュースを聞いた。偶然の出来事に驚いたが、ロッキード事件裁判中の1981年以来14年間、元日には毎年、田中邸の門前取材を続け、メイコさんも夫の神津善行さんらとともに年始の挨拶に田中邸を訪れていた。

 田中邸の年始客は、就職や結婚などで個人的に世話になった人や地元の町内会の面々などごく庶民的な付き合いに始まって、政財官界の有力者まで、ロッキード事件以前から賑わっていた。そのこと自体は社会的儀礼の範囲内だが、元首相がロッキード社から丸紅を通じて5億円の賄賂を受け取り全日空へのトライスター導入に便宜を図ったとして「刑事被告人」となった後は、政治家や官僚たちが「金権と人脈」を背景に「闇将軍」にすがるように年始に訪れることに、新聞記者として強い違和感を抱いていた。

 ロッキード事件発生の1976年には、司法記者クラブに所属し、2月に米上院外交委員会多国籍企業小委員会の「コーチャン証言」をきっかけに始まった特捜部の捜査をほぼ1年にわたって取材した。翌771月から公判が始まり、丸紅、全日空、児玉誉士夫・小佐野賢治両被告の3ルートに分かれて毎週3回開かれる公判をフォローした。社会部内の所属が遊軍に移った時点で、元日の田中邸門前取材を思い立った。

 動機は、先に触れた「違和感」で、誰に指示された訳でもない。門前取材を始めてみると、後ろめたいのか顔を隠すようにして急ぎ足で田中邸の門をくぐる官僚などの姿を目撃することになった。午前7時ごろに門前に着き、夕方まで寒さをこらえながら、訪問客ひとりひとりをチェックし、可能なら話を聞いた。記事は、休刊日である2日の翌日、3日朝刊の2面か3面に地味な扱いで掲載された。

 「田中邸の正月の賑わい」を報道することは、元首相が被告の身になっても政治的な力を誇示していることを宣伝するようなもの、という批判もあったが、自分としては、年始客の実名をチェックし報道することで、このような「田中詣で」が、日本の政治を考えるうえで真っ当なことなのか、問題提起したい思いがあった。

 元首相が倒れた後の1989年、元首相は不自由な身体で年始客に応対した。ある新聞は元首相サイドの発表をうのみにしたのか、「年始客は午前中で、五、六百人」と報道したが、実際には午後1時までに120人足らずだった。カウンターを用意して人数を数える、記者としての基本だった。毎日新聞は、元首相が車椅子で邸内の庭を移動する姿を撮影した航空写真を86年1月に一面トップで報道した。脳梗塞で倒れた後、その姿を捕らえた写真は初めてだった。これも権力を持つ政治家の姿を読者に伝え、判断材料にしてほしい、という気持ちが込められていた。

 元首相は被告のまま199312月、75歳で死去し、翌年の元日が門前取材の最後となった。元首相は死去に伴う公訴棄却の手続きがとられたが、贈賄側の丸紅元幹部らは最高裁判決(95年)で有罪が確定し、元首相の罪も断罪された。判決によれば元首相は、丸紅幹部だった檜山廣、大久保利春両氏から首相在任中の72823日、この田中邸で5億円支払いを約束する請託を受けていた。

 歴史を振り返れば、作家、立花隆さんらの手で「田中金脈」の実態が報道されたのは1974年で、今年は「金権」「金脈」が批判されて50年になる。その後にリクルート事件などがあり政治改革の名のもとに、衆院選に小選挙区制が導入された。それまでの中選挙区制では、同じ選挙区で自民党各派閥の候補者が競い合い、それが政治にカネがかかる元凶という認識があった。元首相の長女真紀子さんは、自民党裏金事件表面化後、元首相が訪れる政治家らにカネを配っていた事実を認める発言をしている。

 制度改革にも関わらず「政治とカネ」の問題は、その後も透明化も適正化も出来ていなかったことが、今回のパーティー券裏金事件で浮き彫りになった。国民の税金から支給される政党助成金も、業界団体の献金が政治を歪める恐れを懸念して設けられたが、国会議員には自浄意識が期待できないことが明らかになった。

 有権者である国民が、日本の民主主義をどのように自分たちのものにすることが出来るか、決断と行動が問われる。

(日刊サン 2024.2.14)

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』を自費出版。


 

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