まだ夏の暑さの残る9月、私はボストンを訪れました。懐かしい昔の仕事仲間たちに会い、またボストンから40キロ東へ行ったグロスター港から沖へ出て魚釣りも楽しみました。釣果の方はサバは多くかかったのですが、最後にりっぱなストライプバス(スズキ)も釣り上げました。さらに友人に付いて行って本マグロの集荷場にも足を運び、久しぶりの検品、出荷の現場に立ち会うこともできました。
私にとってボストンは、第二の故郷のようなもので、かつてここを拠点としてメイン、ニューハンプシャーの北方面、そして南に下ってニューヨークからニュージャージー、さらに下ってノースカロライナへとアメリカ東部海岸一帯をマグロを追いかけて駆け巡りました。さらには9月にもなるとカナダのノバスコシア州まで出かけました。こうして買い付けたマグロは、米国内への出荷、そしてより品質の良いものは日本への出荷を行っていました。
ということなので私がマグロを見ると、“血が騒ぐ”という感じなのでしょうか!この場でもとても感動的で懐かしい思いで満たされた時間となりました。それだけではなく、これらの入荷してきた新鮮な天然ボストン本マグロの刺し身をお腹いっぱいにただきました。今も現場で活躍している友人は、マグロ本体から切り落とされた頭や尾の部分からマグロの身を切り抜き刺し身にしてくれたのです。久しぶりに脂ののったボストンマグロと、釣り上げたスズキの刺し身に大いに舌鼓を打ちました。
ボストン一帯の漁師たちは、その日に港を出てその日に釣って帰りますので、釣り上げたマグロは新鮮そのものです。しかし、大西洋で釣れたボストンマグロが、太平洋を超えて日本でいただくとなると、当然に多くの日数がかかってしまいます。
日本に届くまでは、その日の漁師が釣ってきたマグロは、翌日にボストンに集荷され、そこで検品、箱詰めされ、空港へ輸送し飛行機に乗り日本を目指して飛んで行きます。日本の玄関口成田空港に到着し通関を終えれば、箱詰めされたマグロはそのまま東京豊洲市場、または全国の市場へと出荷されていきます。そこで東京、全国の各市場に届けられると、翌朝に競り場に並べられ、仲買さんが目利きをいかして狙ったマグロを競り落とします。競り落とされたマグロは、仲卸でそれぞれの部位に解体され、お得意さんが直接に買い付けに来たり、また顧客へ配送されます。それぞれの店では、買い付けたコロ状態のマグロをサクに下ろし、サクにしたマグロをネタに切り落として寿司、刺し身としてお客さんの口に入るわけですね。
こうしたプロセスに係る日数は少なくとも、釣り上げた日から早くても1週間、殆どは10日から2週間は有に要するわけです。マグロの色目、脂、食感にしても、やはり鮮度が大事になります。少しでもマグロ自体に“ヤケ”があり、色目がくすんでいたり、黒ずんでいたりすると、時間が経てば経つほど変色がさらに進み味にも苦味が出てきます、また、本マグロと言えばやはり脂ののりが大事ですが、時間が経てばマグロの旨味、食感を味わうことができません。
日本で美味しい天然ボストンマグロは高価なこともありますが、鮮度のいいマグロを味わうチャンスは当然に少なくなってしまいますね。私は本当に幸運で、アメリカでの一番のご馳走になりました。