前コラムでは、青森県・大間漁協に所属する漁船が、漁獲したマグロを漁協に報告せずに、仲買業者に直接流通させて、買い手側の回転寿司店では堂々と“大間産のマグロ”として提供していた一件をお伝えしました。日本のマグロ漁獲量は国際合意によって決められており、もし漁業法違反となれば、日本の信用も当然に失います。実際のところ未報告のマグロは14トンと伝えられていますが、ちまたではこの一件は、ただ「氷山の一角に過ぎない」と噂されているようです。
ここに、もう一つ似たような事件があります。今度は、九州の熊本県であったことです。「熊本県産」と表示されたアサリが、実は中国産や韓国産であったのでした。農林水産省が昨年10月から12月にかけて全国小売店にあったアサリを、DNA分析によるサンプル調査したところ、「熊本県産」と表示されたアサリのうち97%が外国産であると報告しました。なんとこの3ヶ月期間で2485トンものアサリが「熊本県産」として販売されていたのです。実際の熊本県内からは年間量アサリは21トンの漁獲に過ぎないのですから、120倍ものアサリが偽装表示だったわけです。日本全国のアサリの79%が「熊本県産」のシェアーなので、全国では外国産と知らずに偽物アサリを食べていたことになります。
この一件が一気に明るみに出ると、熊本県知事も大慌てで、すぐさま「アサリだけでなく、熊本のブランド全体への信頼を揺るがす危機的状況、熊本県にとって非常事態!」として、「緊急出荷停止宣言」を発出し、「2月8日からおよそ2カ月間、熊本県産のアサリの出荷を停止する」としました。
それでは、なぜ大掛かりに産地偽装してまで、違反行為ができていたのでしょうか。ここに、“アサリの畜養”というカラクリがありました。すなわち、中国や韓国で獲れたアサリでも、熊本県内の干潟に入れて育てるいわば「畜養」を行った場合、その国内での畜養期間が長ければ「国産」「熊本県産」と表示できるということなっていることです。
食品表示法に従えば、たとえば海外で生まれ育って2年間経っていて、国内で2年以上そして1日でも長く育てれば(畜養すれば)「国産」と表示ができるわけです。巧みにこの法の裏をかい潜って「熊本産」として出荷してきていたのです。すなわち実際はかなり違っていて「畜養は行うが、1~2週間で出荷してしまう」というのが実態でした。出荷できる大きさになるまでにはおおよそ2~3年はかかるのですが、それと同じ期間以上を国内で畜養していることなどは全くないのです。3センチほどに育った“成貝”のアサリを輸入し、一応浜に埋めて“仮置き”だけをしていたのです。
漁師、業者は輸入先の「中国産」表示では、一般消費者からそっぽを向かれてしまうことを恐れたのです。そこで数日、数週間だけ干潟に放して産地名は「熊本県産」とすることで、販売価格も国産並につけられることになります!