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コラム 来夏の映画観ようよ

007ノー・タイム・トゥ・ダイ

 失恋は引きずらない方だ。何日かやけ酒をして旅に出たらすっきりリセット、「次行こう、次!」と去る者は追わず、あまり思い出に浸ることもない。

 

 巨大犯罪組織“スペクター”の首領ブロフェルドを捕えた後にMI6を辞職し、恋人マドレーヌと共に幸せに満ちた日々を送っていたジェームズ・ボンド。かつて愛した女性ヴェスパーへの想いに区切りをつけようと墓を訪れるが、そこでスペクターの紋章を見つけた途端爆発が起き、自らの行動が全て筒抜けになっていることを知る。マドレーヌが裏切ったと察し決別してから5年、旧友のCIAエージェント、フィリックスがボンドの元を訪れ、生物兵器が何者かに奪われテロの危険があるため、力を貸して欲しいと頼まれる。

 

 辛い。辛くて筆が進まない。周知のように、ダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドはこれで最後だ。相変わらず、立ち姿だけで色気たっぷり、陸橋からの大ジャンプや、防弾仕様のアストンマーティンでもさすがに無理かと敵に包囲され絶対絶命でも余裕綽々で反撃、とアクションも限界を超えてかっこよくときめいた。“カジノ・ロワイヤル(2006)”初見から15年、ずっと彼の演じるボンドが大好きだった。ショーン・コネリーやピアース・ブロスナンといった先代の007も鑑賞したし、本シリーズに限らず数々の映画で魅力的な主人公は何人もいた。にも関わらず、もう永久に会えなくなるのかと思うとこんなに感傷的になってしまうのは本作のボンドだけだ。俗にいう、失って初めて気付く大切な存在―。兵器開発担当Qのプライベートをもう少し覗いてみたかった、ラミ・マレック演じる敵役はもっと邪悪な場面があっても良かったのでは、と色々と感想はあるが、この一言に尽きる。ボンドが恋しい…。

 

 長年の熱烈で一方的な片思いが終わったわけだが、やけ酒をする気にもなれず、リアルではしないはずの過去のアルバムをめくるようにこれまでの作品を見返し、いま途方に暮れている。

●加西 来夏 (かさい らいか)

映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/母は2日連続で映画館へ行き、さらにもう一度観に行こうとしています。私は辛いので誘わずにしばらくそっとしておいて欲しいです…。

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