肌寒くなり、ぼちぼち紅葉が見られるようになった。ああ、芸術の秋がやって来たと思ったが、そもそもなぜ秋は芸術の季節なのだろう?1918年、日本で大正7年に雑誌で“美術の秋”という言葉が使われたのがきっかけだそうだ。
さすが天下の大英帝国―古くは紀元前2500年の工芸品、そして中近東、アフリカ、ヨーロッパ、南米など世界各地の文化財が網羅された大英博物館。見どころだらけの中、入ってすぐに目を奪われたのが古代エジプトで信仰されていた猫の女神・バステトのブロンズ像だ。耳と鼻には金のピアス、首には“ホルスの目”、胸にはスカラベとまさにエジプトのシンボルを身に纏った姿は凛として見目麗しい。
また、強烈かつ神秘的でインパクトを受けたのは“テスカトリポカの仮面”。飛び出した丸い目が際立ち、鮮やかな水色のターコイズ石と黒色の亜炭でモザイク装飾がされている。歯も付いていて並び方や欠け具合が妙に生々しい…と思ったら、本物の人間の頭蓋骨を使って作られたものだった。ちなみにテスカトリポカとは、古代メキシコ、アステカ文明の神話でケツァルコアトルと共に世界を創造した重要な地位にある神だ。
もしお金が有り余っていたら高級ブランド“ウブロ”の一本でも欲しいと妄想する程度には、時計が好きだ。アクセサリーとしてのデザイン性はもとより、複雑に絡み合った小さな歯車や秒針のメカニックさが堪らない。そういう人ならきっと気に入る時計展示室もある。煌びやかな金細工の懐中時計や、通常のカレンダー機能に加え聖人の日、祝日をも示すコンピュータさながらの置時計がずらり。最もゴージャスで凝っていたのは、16世紀に制作された船型の機械仕掛け時計だ。かつては音楽が流れ、テーブル上を走行したという。
海外では芸術の秋に該当する言葉はないそうだが、イギリスを訪れた際はケンジントン公園は黄葉、オックスフォードでは紅葉が見られ風情があった。何にせよ、過ごしやすい気候での芸術鑑賞は心を豊かにしてくれる。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/雪が降りましたが、近所で色鮮やかな紅葉が見れました。やや寒いですが、いい季節です。
(日刊サン 2021.11.05)