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デジタル版・新聞

木村伊量の ニュースコラム

【ニュースコラム】ああ、つまんない  ウイットのある政治家はどこに?

先月31日に投開票された日本の総選挙。この国の政権選択の機会である衆院選の大切さは、いまさら言うまでもありません。でも、誤解を恐れずに申し上げれば、なんだか「つ・ま・ら・な・い」選挙でした。

何が退屈だったかというと、各党の候補者たちが訴えることがあまりに平板で、その言葉に知性の奥行きと、人生のふくらみ――要するに「エスプリ」を感じさせるものが乏しかったからなのです。コロナへの対応でも、経済・財政対策でも、与党も野党も口をそろえて「しっかりと取り組んでまいります」。いつからなのでしょうか。ネコも杓子(しゃくし)も「しっかりと」なんて無味乾燥なフレーズを多用し始めたのは。

スマートな2世、3世の世襲候補が増えて(自民党では30%)、暴れん坊ながら骨太な主張を持ち、キラリとした個性が輝く政治家(候補者)がめっきり少なくなったことも、「つまらない」要因かもしれませんね。岸田文雄首相は生真面目なジェントルマンですが、自民党のある女性職員の岸田評は「パーティーでお隣に座っても、あまり面白くない人よね」と辛口。そういえば、岸田首相からジョークのひとつも聞いたことはないなあ。

わたしは組織を率いるリーダーに必要なのは、明確な政治の指針、明るさ、それにウイット(機智)とユーモアを解する精神だと思います。

ずいぶんと昔の話ですが、1981年、ときの米国大統領レーガン氏はワシントン市内で暗殺未遂事件に遭遇し、瀕死の状態で大学病院に担ぎ込まれます。タンカの上で苦痛に顔をゆがめながらレーガン氏は“Honey, I forgot to duck.”「ハニー、(銃弾を)避けるのを忘れちゃったよ」。1926年のボクシング・ヘビー級選手権でジャック・デンプシーが敗戦後に妻に語った言葉を引いたのでした。

そして、いざ胸に食い込んだ銃弾を取り出す手術となると、医師団に向かって「君たち、みんな共和党員だろうね」。それに答える主治医の返事がまたふるっている。「閣下、今日は全員、共和党の医者をそろえております(これは真っ赤なウソ。主治医は熱心な民主党支持者でした!)。生死の関頭に立っても必殺のジョークを飛ばすタフな大統領に、米国民はグッときたものです。

2007年、英国議会の下院ロビーで、「鉄の女」と呼ばれたサッチャー元首相の銅像除幕式が行われました。スピーチで元首相は「私には鉄の像がよかったかもしれませんが、ブロンズもいいですね。ブロンズは錆びませんから」。周りからは、やんやの拍手と歓声がわきおこりました。

英国ではチャーチル元首相のジョーク集が何冊も出版されるなど、指折りのジョーク大国。逆境を笑いで切り抜けてきた、ユダヤ人たちが繰り出すジョークも黒帯級です。ジョーク一つ飛ばさない、堅物のリーダーはコミュニケーション能力を欠くとされ、愛想をつかされるのですね。

わたしが政治記者時代に担当した政治家の中では、金丸信・元自民党幹事長の天然のおもしろさは断トツでした。演説の最中に「パラボラアンテナ」を「バラバラアンテナ」と言い間違えるなんてのはザラ。総選挙中に地元の山梨で遊説した折には集まった支持者を前に「皆さん、この金丸信が肩の張れる票を出してください」。支持者がざわつくと、「ああ、肩じゃない、胸の張れる票を出してください」。でも、これは彼の愛嬌というべきで、ウイットと言えるたぐいではなかったように思います。

そこへいくと、戦後の宰相・吉田茂氏には、英国仕込みのジョークを武器に相手をけむに巻いた逸話がいくつも残っています。

占領下のGHQ(総司令部)を訪ねてマッカーサー元帥に向かい合った首相は、「ところで一度お聞きしたいと思っていたのですが、GHQとは何の略ですか?」。首相は外交官出身で、名うての英語づかい。いぶかしく思ったマッカーサー元帥が「もちろん、General Head Quarter(総司令部)に決まっているじゃないですか」。すると首相は「なんだ、そういう意味でしたか。わたしはGo Home Quickly(早く帰れ)かと思っていました」。これを境に、二人のリーダーの距離はぐっと縮まったそうです。

麻生太郎・元首相はご存知、吉田茂氏のお孫さん。さすがに血筋は争えない。じいさん譲りのジョークが……と思い出そうとしたのですが、頭に浮かぶのは失言やダジャレばかりで、うーん、ごめんなさい。一つも思い出せません。

(日刊サン 2021.11.05)

木村伊量 (きむら・ただかず)

1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章(CBE)を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。

木村伊量さん 新作 著書紹介

偶然出会った個性派揃いの3人の論客。 再会を果たした3人と元政治記者が ゴーギャンの画の答えを求めて繰り広げる知の饗宴の行方とは

【内容】 ゴーギャンの画の答えを、まだ私たち、見つけていないわよね――。ボストン美術館で偶然に出会った、年齢不詳の万学の王・如月、強烈な進歩肯定派の脳神経外科医・サチコ、南方熊楠を崇拝する精霊の森の隠者・りゅう。再会を果たした3人は、画の答えを見つけるべく、知の饗宴を繰り広げる。個性派ぞろいの論客たちをまとめるのは、元政治記者の散木庵亭主・ハヤブサ。三酔人文明究極問答の行方は如何に。

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