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デジタル版・新聞

Hurricane Iniki's Attack in 1992 コラム

【Hurricane INIKI’s Attack in 1992】30年前の手記より (3)

911日 ハリケーン・イニキ到来 Part3

 ハリケーンが過ぎ去った後、どっと疲れた。とにかく疲れた。何もする気はなく、まるで私の気力までも持ち去ってしまったかのように、自分の抜け殻だけが、家の中にいるような、自分であって自分でない、そんな感じが私を襲った。

 それでも、風が収まり、なんとかドアを開けた時に濃厚な木の葉の匂いが私の鼻をくすぐり、初めて自分に戻ったような気がして、家の周りを見てみた。そこにはいまでも覚えているが、風で押し積み上げられたきれいな緑色の葉っぱがあり、それを見つめていると、どこからともなく鳥の声がした。お互い生き延びたことを喜んでいるような声に聞こえて、思わずほほが緩んだ。鳥たちはどこに避難したんだろう? ヒナたちは大丈夫だったんだろうか? 牛たちはどうしたんだろうか?

 生き延びるとはこういうことなのか。ただただどこかの片隅に背中を丸めて両手を耳にあててうずくまって通り過ぎるのを待つだけなんだろうか。自然の怒りに立ち向かうのは、やはりバカげたことで、到底できることではない。だから自然に背を向けて自分を守ることは、鳥も、牛もニワトリも出来ている。だったら人間もだ。こうして私も生き延びていくんだ。

 このハリケーンは私に人間という存在としての無力さと同時に生き延びたものでしか感じられない、生命力を与えたのであった。とりあえず今日は何もできない。すべては明日からだ、と絶望に似た使命感をもって眠りに入ったのである。

(つづく)

Yukio Waka

大阪で生まれ、20代後半まで大阪で暮らす。アメリカに渡り、ニューヨーク、サンフランシスコを経て、ハワイへ。ホノルルで旅行会社に勤務中、カウアイ島への出向を命じられ赴任する。イニキ災害の後、ホノルルに戻り、ハワイ島に出向。ハワイ島の魅力に取りつかれ、現在に至る。

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