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高尾義彦のニュースコラム

日本の陶芸、苦境を超えて

 新型ウイルスの感染が拡大し、芸術・文化などの分野で、さまざまなイベントが中止や延期を強いられている。なじみ深い陶芸の世界も、この波を避けられないが、その合間を縫って、この夏は3つの陶芸展に足を運ぶことが出来た。 

 ひとつは、那覇市の首里城並びにある沖縄県立芸術大学の若手陶芸家による「沖縄 陶5人展―葉月の便り―」。東京・新宿駅東口柿傳ギャラリーで8月21日から開催された。作家らは感染者増の沖縄から来られず、初日には会えなかったが、力作が並んでいた。 

 沖縄には「やちむんの里」が読谷村にあり19の工房が並ぶ。沖縄旅行の際に訪ねて、沖縄初の人間国宝となった金城次郎さん(故人)がここに工房を移した後、陶芸家たちが集まり焼き物の里を形成していった歴史を身近に感じた。金城さんの作品は、魚やエビなどをモチーフに、「笑う魚」といわれるユーモラスな魚紋などをデザインし、海に囲まれた沖縄独特の作風。芸大には沖縄以外からも陶芸志望の若者が集まる。 

 二つ目は、神谷紀雄さんの個展で、7月に銀座・和光で開かれた。栃木県益子焼の窯元の家に生まれ、和光では隔年に個展を開催し今回で20回目。千葉市に窯を持ち、県内の陶芸家とともに「陶葉会」を結成するなど後進の指導にも力を入れる。秋海棠をモチーフとする鉄絵銅彩で知られ、今年80歳だが、作風は年齢を感じさせない若々しさを発信する。 

 神谷さんとは、もう20年以上前に、門前仲町の和風の店「久寿乃葉」で知り合い、お酒だけでなく、グループ旅行やゴルフなどのつき合いを重ねてきた。そんな交際から生まれた陶芸家が、若手の安田直子さん。安田さんの個展は8月19日から日本橋三越美術サロンで開かれ、彼女にとって初めての大きなイベントとなった。 

 会社勤務だった安田さんが陶芸家を希望していると聞いて、神谷さんに紹介し、彼女が内弟子として師事したのが2006年だった。修行を重ね、日本伝統工芸展に4回入選して日本工芸会の正会員として認められ、館山市に窯を持つ本格的な陶芸家になった。初期の作品から常に金魚がモチーフで、今回も気持ちよさそうに泳ぐ涼しげな金魚を描いた大きな花器や皿が展示された。 

 身近な陶芸家として群馬県赤城山麓に「不可知窯」を構える樺沢健治さんや岩手県野田村に工房がある泉田之也さんにもお付き合いいただいている。樺沢さんは仙人のような風貌で南蛮焼き〆が特徴、泉田さんは厳しくそそり立つ三陸海岸をイメージした作品が多い。 

 そんな知り合いの中で、この夏、茨城県・笠間の「風の窯」の主である新井倫彦さんが東京新聞茨城版の「東海第二原発 再稼働考」というインタビュー特集に取り上げられていることに気づき、びっくりした。新井さんは母校徳島県立川島高校の2年後輩で、大学卒業後、鹿児島県の工業試験場で研修後、笠間に窯を開いた。 

 記事は8月6日付けで、新井さんは、2011年の東日本大震災で東京電力福島第一原発事故が起きた当時を振り返り、「知り合いの陶芸家が地元の松を薪として使っていたが、その灰から放射性物質が検出された」「陶芸に使う土は、地元の材料ではなく、滋賀県の信楽焼の土に変えた」と、放射能汚染の影響が陶芸にも及んだことを指摘している。  

 笠間では毎年、5月のゴールデンウイーク前後に「陶炎祭(ひまつり)」を開催し、陶芸家や販売業者など200軒以上が店を出して賑わってきた。今年は新型ウイルスの影響で中止され、10月半ばに延期されたものの、やはり断念と決まった。8月末に中止を教えてくれたのは、安田さんの縁で笠間で作品を拝見した若手の東香織さんだった。来春はぜひ実現を、と関係者は当面、通信販売などでしのぐという。 

 イベントの中止といえば、神谷さんや安田さんが出品予定だった東日本伝統工芸展の東京展(4月)なども中止された。文化庁など主催の第67回日本伝統工芸展は9月半ばから三越日本橋店で開かれる予定で、これは陶芸以外の染織、漆芸、金工などの分野も含まれ、無事、開催してほしい。日本で最大級といわれる日本陶芸展は2年ごとのビエンナーレ方式で運営され、次回は2021年の予定で、こちらも26回目の開催を祈りたい。 

 芸術・文化の他の分野でも新型ウイルスの影響は深刻で、クラウドファンディングなどの手法が取り入れられてきた。ささやかに寄付をしたミニシアター・エイド基金では、3億3千万円を超える金額が寄せられた。「本屋さんを支えたい」というブックストア・エイド基金も、それなりの実績をあげたという。 

 しかし日本政府や地方自治体の政策は十分とは言えない。ドイツ政府は3月の早い時期に、零細企業や自営業者の緊急支援枠として500億ユーロ(約5兆9千億円)を打ち出し、これは芸術・文化領域も対象にすると説明し、注目され、フランスなども手厚い政策を示す。 日本もこの機会に、芸術や文化の社会的意義に対する認識を改めてほしいと切に願う。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2020.8.31)

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