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デジタル版・新聞

木村伊量の ニュースコラム

【ニュースコラム】無差別攻撃の「罪と罰」子供を救え!

 避難民が集まっていた鉄道駅にミサイルが撃ち込まれ、首都キーウの近郊の町では大勢の虐殺死体が見つかりました。ウクライナでは目を覆わんばかりの凄惨(せいさん)な事態がなお続いています。兵士も民間人も区別しないロシア軍による「無差別攻撃」。プーチン大統領が「自作自演のフェークニュースだ」と反論しようと、世界が彼の言葉を信じることはありません。

 ウクライナの惨状を目の当たりにした米国の映画俳優で監督のショーン・ペン氏は「いったい、今は何世紀なんだ?」と問いかけました。そう、ぼくらが銀座や新宿のレストランで、友人たちと談笑しながら優雅なランチを楽しんでいるこの瞬間にも、ウクライナの子どもたちの頭上には爆弾やミサイルが降り注いでいるのです。21世紀、理性は逆流しているのでしょうか。

 プーチン氏は「ジェノサイド」(大量殺りく)を犯した戦争犯罪人として裁かれなければなりません。彼の非道はいささかの弁護の余地もありませんが、古今東西の人類の歴史をたどると、無差別攻撃の不条理にさらされてきたことに、改めて胸ふさがる気持ちがしてきます。

『旧約聖書』には、エジプトを出たモーゼがシナイ山頂で神から「汝殺すなかれ」など十戒が授けられる有名な場面が出てきます。しかし、殺してはならないのはどうやらイスラエルの民のことであって、『旧約聖書』には「神の国に背く民族や国家の住民を皆殺しにせよ」とあります。モーゼも、その従者のヨシュアも、ゆく先々で残忍な殺りくに手を染めました。

1572年、フランスでカトリック教徒による新教徒ユグノーに対する「聖バーソロミューの大虐殺」が起きます。フランス全土で数万人のユグノーが殺されたと知らせを受けた、ときのローマ法王グレゴリウス13世は歓喜のあまりに祝砲を放たせ、ローマ市民に松明(たいまつ)を焚(た)かせたのです。日本では織田信長による悪名高い「比叡山焼き討ち」が起きた翌年のことでした。

 こんなことばかり綴ってくると、人間への不信が募ろうというものですね。でも、もう少しおつきあいください。

 近現代になってからの無差別・大量殺りくというと、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺や、ソ連のスターリンによる恐怖支配のもとでの粛清がすぐに頭に浮かびます。わたしがここで触れたいのは米国が犯した「罪」の深さです。

 米国には第二次世界大戦やべトナム戦争に先立つ「焦土作戦」の先例がありました。南北戦争で北軍のウイリアム・シャーマン将軍は、ジョージア州アトランタを陥落させた後、南部に侵攻して民家をことごとく焼き払ったのです。これが、非戦闘員を根絶やしにする、米軍の作戦の先行モデルとなりました。

 第二次大戦に先立って、米国はユタ州の実験場に日本とドイツの労働者住宅のレプリカを建設しました。日本家屋の畳はハワイから運び込まれました。米国は将来の都市攻撃でもっとも効率的に民家を燃え上がらせ、住民を焼き殺せる新型焼夷(しょうい)弾M69の開発を極秘に進めたのでした。

 29の大編隊による東京大空襲をはじめ、日本各地の人口密集地への無差別攻撃の指揮をとったのはカーティス・ルメイ将軍でした。彼は戦後、「日本人を殺すことに悩んだりはしなかった」と語っています。彼にとって日本は『旧約聖書』に出てくる、悪徳がはびこるソドムとゴモラの町だったのでしょうか。そのルメイ氏に、戦後の佐藤栄作内閣はあろうことか、日本の航空自衛隊の育成に功があったとして、勲一等旭日大綬章を贈ったのです。ひどい話です。

 最近、読み返した2冊の本があります。ひとつは小田実(おだ・まこと)氏の『難死の思想』。大阪空襲を逃げ惑った民衆の立場から、「そこにいるのは国民ではなく、黒焦げ死体として転がる難民なんだ」と書きました。みじめな骸(むくろ)はいつでも、恐るべき殲滅(せんめつ)思想の犠牲者なのです。

 もうひとつは、近代中国を代表する作家魯迅(ろじん)の『狂人日記』。封建的な儒教道徳に縛られる中国の欺瞞(ぎまん)を「食人社会」にたとえて風刺した異色の作品ですが、物語の末尾の狂人の言葉が心に残ります。

 「人を食わずにいる子どもは、あるいはいるかもしれない。子どもを救え」

子どもはいつの時代でも、暗い社会の先にほのかに見える未来と希望の灯なのでしょう。いまこそ、「子どもを救え!」。遠くウクライナの空に、子どもたちの笑い声が響く日よ戻れ、と祈らざるをえません。

(日刊サン 2022.4.22)

木村伊量 (きむら・ただかず)

1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章(CBE)を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。

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