【高尾義彦のニュースコラム】統一地方選に向けて、民主主義を考える
4年に一度の統一地方選挙が4月に実施される。国政レベルでは、岸田文雄政権が危険水域に近い低レベルの支持率を記録し、さまざまな課題が指摘されている。統一地方選は、有権者が政権に求める政策などを意思表示する機会でもあるが、その前提として政治への参加を有権者がどのようにとらえているのか、考えさせられることが多い。
大都市への人口集中、農山漁村の過疎化が進み、地方議員のなり手が少なくなっている現状が大きな問題となっている。個人的に、この問題に身がつまされる思いを抱くのは、小学生の頃、1年余り住んでいた村がまさにその状況に追い込まれていると知ったためだった。
高知県土佐郡大川村。四国山脈に抱かれた自然豊かな村には、海抜800メートルの高地に日本鉱業白滝鉱山があった。父の転勤で小学5年の秋(1957年)、この村の小学校に転入し、卒業まで1年余り、ヤマの生活を体験した。鉱山で働く人を中心に当時の村の人口は4000人を超えていた。
ところが、はるかな時間が過ぎて東京で新聞記者として働いていた2006年に、高知新聞が「500人の村がゆく」という特集記事を1年間、連載していることを知り、現状に気づいた。一人の記者が村役場で働き、彼の目を通して見た山村の実像を紹介していた。鉱山に残された朽ち果てた公衆浴場の写真を懐かしく見た。
鉱山は1972年に閉山し村の人口は急激に減少した。そのうえ吉野川の最上流に当たる村に、巨大な早明浦ダムが1977年に建設されて、当時の村役場や村落の一部はダムの湖底に沈んだ。「500人の村」では、村議会を廃止し有権者全員が直接参加する「村民総会」の設置を検討する事態になった(2017年)。論議の末にこの発案は見送られ、前回選挙では、立候補者が兼業できる条例を設け、6人の定数に、村おこしなどで移住してきた新しい村民らも加わり7人が立候補、8年ぶりに選挙が実施された。
村の人口は、昨年10月の統計で359人。離島を除くと、最も人口が少ない自治体の一つで村民の高齢化も進む。鉱山跡には「白滝の里」など宿泊施設も整備され、観光にも力を入れている。
地方議員のなり手が少ない現実は大川村に限らない。統一地方選を前に共同通信が全国の地方議会議長にアンケートした結果、63%が「なり手不足を感じている」と回答し、各地の実状を報道する記事も目につく。例えば東京に近い神奈川県大井町では昨年12月に町議補選が告示されたが、立候補者は一人もいなかった。大分県の津久見市はかつて「セメントのまち」として栄えたが、公共工事の減少などで需要が減って、人口も50年間で半分に減った。過去2回の市議選は無投票当選で、今回も同様の見通しがささやかれる。
首相の諮問機関「地方制度調査会」は昨年12月、地方議員のなり手を確保するため、報酬水準の見直しや夜間・休日議会の開催などに積極的に取り組むことを議会に求める答申をまとめた。前回統一地方選では、女性議員が都道府県、市区町村議会のいずれでも1割台で、女性のなり手を増やす試みも課題だ。
長野県喬木村では、夜間・休日議会も開いているが、定数12人のうち欠員2人を選ぶ補欠選挙では1人しか立候補せず、欠員1のままで統一地方選を迎える。大川村が独自に条例で導入した兼業の範囲を広く認める対応策は、昨年12月、改正地方自治法が成立、全国的に適用されることになったが、どこまで立候補を促すことが出来るか。
ここで統一地方選の日程や構図などをおさらいしておく。道府県と政令市の首長、議員選挙が4月9日に実施され、それ以外の市区町村の首長、議員の選挙は23日に投開票される。知事選は9道府県で予定され、このうち生まれ故郷の徳島では、自民党の三木亨参院議員、後藤田正純衆院議員が議員を辞職して立候補を表明している。現職の飯泉嘉門知事も2月4日、6選目に向けて立候補を表明し、保守分裂選挙の様相となっている。
もうひとつ、注目されるのが衆院議員の補欠選挙で、統一地方選後半と同じ4月23日投開票と決まった。対象の選挙区は、千葉5区、和歌山1区、山口4区。千葉は薗浦健太郎議員が政治資金規正法違反事件で辞職、和歌山は岸本周平議員の県知事選出馬による辞職、山口は安倍晋三元首相の死去に伴う選挙だ。
山口4区は、次回選挙から「10減10増」の新たな区割りが適用され、現在の3区の一部とともに新3区となる。現在の3区は、林芳正外相の地盤であり、自民党はこうした事情も考慮しながら、安倍後継の擁立を迫られる。
さらに山口2区では、岸信夫前防衛相が健康上の理由で引退の意向を表明し、2月3日に議員辞職を届け出たため、4月23日の補選が確定、山口ではダブル補選となる。補選の結果は、国政に直結するだけに目が離せない。
政治を取り巻く状況は明るくないが、なぜ政治に取り組もうとするのか、真剣に考え、志を立て身を挺して政治の世界に飛び込む若い人材に期待したい。
高尾義彦 (たかお・よしひこ)
1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。
(日刊サン 2023.2.8)