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デジタル版・新聞

高尾義彦のニュースコラム

東京五輪・パラリンピックから、総選挙へ

コロナウイルス感染拡大に加え、さまざまな不祥事が続発し「呪われている」との声も出る中で、東京五輪が7月23日に始まった。8月のパラリンピックを終えると、政界は総選挙に向けて動き出す。直近の世論調査で内閣支持率は菅義偉首相の就任以来最低を記録し、五輪強行で人気回復を狙う政権の行方は不透明なまま、秋の政局を迎える。

東京五輪は柔道などの金メダル・ラッシュで始まり、菅政権とその周辺は、人気浮揚の効果を期待しているようだ。しかし開会式当日までに選手や関係者100人以上が新型ウイルス感染と報告され、国内の感染者は東京で4,000人を超えて最多を更新、「コロナを克服した証しの五輪」とは言い難い開幕となった。開会前に、自宅に近い晴海の選手村を見に行ったが、熱く盛り上がる期待感には乏しく、大会会場の中と外の落差は大きい。

五輪開会直前に、時事通信の世論調査で菅内閣の支持率が29.3%と、昨年9月の発足以来、初めて20%台に低下した(7月16日)。これに続き、毎日新聞の世論調査でも前回6月の実施結果から4ポイント減らして30%となり、「危険水域」目前と厳しい見方が出た。テレビを含め各メディアの世論調査は同様の傾向を示し、時事通信は、東京に4回目の緊急事態宣言が発令され、日常生活に制約が続く不満や五輪開催への懸念が支持率に影響したと分析した。

総選挙に向けて、世論の動向を見極めるもう一つの指標が7月4日に行われた都議会議員選挙(定数127)だった。自民党は公明党と合わせて過半数の議席獲得を目ざしたが、史上2番目に少ない33議席にとどまり、全員当選の公明党23議席と合わせても、過半数には届かなかった。共産、立憲民主の〝共闘〟効果など、衆院選で自民党にマイナスの影響を及ぼしそうな有権者の意識が垣間見られた。

菅政権にとっては、4月の衆参3選挙の敗北など逆風が続く。背景には、河井克行元法相・案里夫妻の公職選挙法違反事件、河井陣営に自民党が支給した1億5千万円の選挙資金が巨額買収の原資になったのでは、と取り沙汰された疑惑、菅原一秀前経済産業相の有権者に対する現金配布(公選法違反で略式起訴)、秋元司元副内閣相のIR(総合型リゾート)をめぐる収賄事件、吉川貴盛元農相の鶏卵汚職事件と相次いだ刑事事件も尾を引いている。大半が菅首相に近い国会議員たちで、議員辞職や自民党離党に追い込まれたが、保守政権への不信感を募らせる事態となった。

さらにIR構想でカジノ誘致を推進してきた菅政権や横浜市にとって、想定外の〝事件〟も起きている。菅首相の側近、小此木八郎国家公安委員長(内閣府特命担当大臣)が横浜市長選(8月22日)への立候補を表明し、議員辞職した。記者会見では「カジノ誘致に反対する」と表明し、菅政権の政策に反する政治姿勢を示して、保守政界に驚きが走った。

自民党では総選挙を前に、「ご意見番」といわれた長老の伊吹文明元衆議院議長(83)が政界引退を表明した。竹下登元首相の実弟で竹下派会長の竹下亘衆院議員(74)も島根2区からの立候補はしないと表明した。自民党の選挙対策委員長、山口泰明衆院議員(72)も7月6日に地元の埼玉県東松山市で記者会見し、次期衆院選には立候補しないと表明している。

個別の選挙区情勢では山口3区に林芳正元文部科学相が参議院から鞍替えして出馬すると表明、現職の二階派幹部、河村建夫元官房長官との軋轢が話題になった。群馬1区では中曽根康隆衆院議員が比例区から転身する見込みで、尾身朝子議員との公認争いをめぐって確執が続く。

菅政権にとってはまさに内憂外患、どのタイミングで解散するのか。自民党総裁任期満了は9月30日、衆院議員の任期満了は10月21日なので、9月に臨時国会を開き補正予算成立後に解散、などのシナリオが囁かれる。

ワクチン接種の完了時期も大きな目安で、政府は10~11月には接種希望者全員の完了を期待、与党内にはワクチン接種が進めば内閣支持率も上向くという楽観的観測がある。国側が敗訴した広島「黒い雨」訴訟で菅首相が7月26日、唐突に上告断念を表明したのも、低迷する支持率に対する配慮との観測が流れた。

「五輪の年に首相退陣」というジンクスに言及するメディアもある。64年東京大会では池田勇人首相、72年札幌大会の時は佐藤栄作首相、98年長野大会当時の橋本龍太郎首相の前例で、総選挙の結果次第では何が起こるか分からない。

衆院議員の定数は465(小選挙区289、比例代表176)、現有議席は自民277、公明29。自民は単独で過半数を超えているが、安倍晋三前首相は「与党で過半数を獲得すれば、明確な勝利だ」と雑誌のインタビューで予防線を張る。

都議選の結果で、ひとつ明るい材料は、女性都議が41人と過去最多を記録したことだろう。自民党内でも総選挙で女性候補の割合を増やす論議が起きている。与野党ともに、都議選に続き女性の躍進を期待したい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.08.04)

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