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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】新年迎え、日本の防衛、エネルギー政策に新たな発想を

言の葉と 文を楽しむ 年新た   河彦

 明けましておめでとうございます。この俳句は、年賀状に記した一句です。元日だけでなく、「河彦」の俳名でツィッターを活用して一日一句、つぶやいてきました。大晦日で満5年を達成し、6年目に入ります。

 言葉を大切に、2023年もこのコラムを通じて、世界が直面するさまざまな課題や出来事についてお伝えしたいと楽しみにしています。それにしても明るい展望を切り開くことが難しい世の中だと実感します。

 俳句は10数年前から本格的に楽しむようになり、一日一句を心がけるようになって、身の周りで起きている事象や季節の変化について、それまで感じなかった、見えなかったことが、感じられたり見えたりするようになり、これは新鮮な驚きでした。

 司法や平和の問題をテーマに新聞記者の仕事をしてきた現場から離れ、会社人間も卒業したいま、俳句は、単なる趣味というより、感受性を磨き、大きく言えば人類の未来にも関わる問題意識を持ち続ける貴重な道具となっていると受け止めています。人生100年時代、読者の皆様にも俳句や短歌に親しむ生活をお薦めします。

 駄句を重ねながら、年の暮れには、考えさせられるいくつかのニュースや出来事に出会いました。まず、日本の人口の問題です。2022年は出生数が統計を取り始めた1899年以来、初めて80万人を切ることが厚生労働省の人口動態統計で判明しました。世界の人口は80億人を超えたと推定され、ともに14億人台のインドが2023年にはトップの中国を抜く見通しで、世界的にはしばらく人口増が続きます。しかし日本は、最新の合計特殊出生率が1.36となり、新しい年には少子高齢化がさらに深刻になりそうです。

 日本が抱えるもう一つの重要な問題に、食糧自給率の低さがあります。現在37%で、食糧の多くを海外からの輸入に頼り、穀物自給率に至っては28%という水準です。徳島の農村地帯で育ち、高度成長の時代に農業から工業への転換が進み、減反政策によって農家にコメを作ることを放棄させる農業政策が進められる現場をこの目で見てきて、何かが間違っていると感じた記憶が鮮明に蘇ります。事態はいまや危機的状況にまで突き進んでいると言わざるを得ません。

 食糧問題は、ロシアのウクライナ侵攻によって、世界の穀倉地帯から小麦などの輸出が一時ストップし、世界的に大きくクローズアップされた2022年でした。日本では種苗法廃止によって優秀な「タネ」を農家に提供する公的システムが崩壊する危機に直面しています。

 こうした状況の中で、岸田文雄政権が打ち出した2つの政策転換を大きな驚きをもって受け止め、異議を唱えたい気持ちです。

 一つは防衛費を国民総生産(GNP)の2%に拡大し、2327年度で43兆円とする「軍拡」政策です。中国の台湾政策、北朝鮮の度重なるミサイル発射などを理由に上げて、首相は「国民を守る」と強調していますが、平和憲法を尊重し専守防衛を国是としてきた従来の政策を、「敵基地攻撃能力」の概念まで導入して、実質的に改悪する姿勢に、野党だけでなく国民の間に大きな疑問が湧きあがっています。

 財源について、1000兆円を超えた国債発行額を意識してか、首相は増税案を提起していますが、東日本大震災の復興財源に充てられる復興特別所得税の一部を転用する案も含まれ、国を守る意味を取り違えているのではないか、とあっけにとられました。

 岸田政権の内閣支持率は毎日新聞が1218日に発表した世論調査で「25%」と政権発足以来、最低を記録し、他のメディアの世論調査も同様の傾向を示しています。

 岸田政権が打ち出したもう一つの大きな政策転換は、原発を中心としたエネルギー政策です。2011年の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発の運転期間を原則40年とし、一度だけ20年延長できるという「40年ルール」が定められました。安全性を最優先したルールですが、岸田首相が8月に「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」に運転期間延長などの検討を指示、年末にかけて政策転換に大きく舵を切りました。

 福島原発は20233月で事故から12年。全国の15原発33基のうち17基が運転開始から30年を超えて、「40年ルール」を維持すれば、「二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」を目指す2050年には多くの原発が廃炉になって、発電電力量に占める原発の割合は10%程度になる事情が背景にあるようです。

 風力発電など自然エネルギーで必要電力を賄うという目標から大きく後退する政策で、運転期間延長に加え、建て替え、次世代革新炉の導入が盛り込まれました。

 防衛にしろ原発にしろ、岸田政権は国会などで十分議論を重ねることなく、政策を強行しようとする姿勢が露骨にみられます。民主主義にとって危険な政治手法だと言わざるを得ません。

 重い課題を背負った年越しになりましたが、それでも希望を見出したいものです。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


 

(日刊サン 2023.1.1)

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