保険会社United Healthcare 正看護師(Registered Nurse)
エイコ・タさんに聞いた、 コロナ禍の現状
40名以上の 担当患者さんへの現状確認
受け持ち患者さんの約95%以上が65歳以上の高齢者です。成人で基礎疾患をお持ちの方や障がいをお持ちの方、乳児から小さなお子さまもいらっしゃいます。つねに40名ぐらいを担当し、入退院や日常の健康状態を確認しながら、必要に応じて介護者に家に来ていただいたり入浴介助や生活支援などの長期介護サービスをセットする、という仕事をしています。
新型コロナによってどう変わったのか
それまで行っていた訪問による面会から、コロナ禍ではすべて電話対応となりました。必要に応じてビデオ電話で行う場合もあります。
いま、デイケアは閉まっているところがほとんどです。患者さんはデイケアに行くことができません。家に来てもらっての入浴介助、掃除・洗濯などの介護支援についても、コロナを気にして介護者の訪問を断る方、逆に担当介護者が訪問を敬遠されてお休みしている場合もあるようです。
いまは電話でアドバイスを行ったり患者さんの状況を聞いているわけですが、電話だとわからないこともあります。会って話して状況を観察して判断していましたが、電話で「私はいま歩行器で歩いています」と話してくれたとしても、どんな状況なのかが見えないので、その言葉を信じるしかありません。長いことケアをしてきている方であれば、状況も理解していますし、ある程度は想像したり理解できるのですが、このコロナ禍で新しく担当を受け持つ方もいるわけで、その場合は判断にとても困ります。
家族による エモーショナルな助けが大切なのに
いま気になることがこのタイミングでナーシングホームや病院などに入院してしまうと、家族は面会に行けません。これがとても気の毒なのです。会えない上に、症状が悪化してしまう患者さんや亡くなってしまう患者さんもいます。認知症などで医師や看護師さんの治療を受け入れず、指示どおりに薬を飲まない、ご飯を食べない、夜も寝ない。点滴により栄養をと思っても受け付けず、点滴用のチューブを抜いてしまうなど。コロナじゃければ家族のサポートが受けられるのに…、ということは実際に起きています。
家族によるエモーショナルなサポートは、医療者や介助者が世話をすることとはやはり違います。家族の絆はとても大切な部分です。コロナによって面会ができなくなり、それが欠けてしまいます。それはとても大きな弊害ですね。家族も「これでよかったのか」「満足できたのか」などを自問自答することになり、残されたものにも後悔や遺恨を残す結果となってしまうことにもなっている可能性があり残念だと思います。
治療に関する希望を伝える書類、 ポルストを用意しましょう
ポルスト(POLST)という書類があります。Providers Orders for Life-Sustaining Treatmentの略で、生命維持治療のための医療指示書という意味です。本人の意思により、心肺蘇生(CPR)するしない、病院に連れていかれたらどういうケアを受けたいか、呼吸器をつけたいかなど。チェックマークで回答するシンプルなQ&Aスタイルのもので、最後に主治医がサインする用紙です。実際には鮮やかな緑色をしています。
重篤な疾患がある人や高齢者は、これを冷蔵庫など家のわかりやすい場所に貼りだしておくといいですね。救急隊員などが来た際に、この人はCPRはしたくないんだな、とか、どういう治療がしてほしいんだなと判断ができる。主治医が、患者自身から、終末期の治療に対する希望を聞き取って原本は患者、主治医はコピーを保管しておく書類ですので、ぜひ用意しておくといいでしょう。
ポルスト(POLST)Providers Orders for Life-Sustaining Treatment
アドバンス・ヘルスケア・ ダイレクティブも用意しましょう
アドバンス・ヘルスケア・ダイレクティブ(Advance Health Care Directive)とは、判断能力を失った際に自分に行われる治療やケアに関する意向を、判断能力があるうちに意思表示することをいいます。証人を2人立て、その2人にサインしてもらうのですが、自分が将来、話すことができなくなったり、重篤な疾患になったなどの場合、こういう治療をしてほしいなど希望を記した書類で公的な文書になる。これは18歳以上であれば誰でも作成が可能で若い方にも勧めています。
死についてはセンシティブでなかなか家族でも話せない場合がありますが、この書類を残しておくことで、自分の希望をきちんと伝えることができ、家族が困ることがありません。生命維持治療は、家族に理解してもらうことが大切です。オンラインでもフォーム(州によってフォームは異なります)がプリントできますので、お勧めですよ。この書類は医療的な内容ですが、資産のことであれば、弁護士さんに相談しておくことも有効です。
(取材・文 鶴丸貴敏)
(日刊サン 2020.06.05 ハワイでの終活vol.17)