私は、日本の“海なし県”、奈良県在住ですが、北海道函館出身の人間にとって、広い海、海風、潮騒の香りが恋しくなります。そこで、隣の県の三重県の鳥羽まで出かけることが時々あります。
特急列車を使えば2時間で行くことができます。鳥羽の入り組んだ海岸線や島々の景色は美しく、そしてたくさんの海産物にも恵まれています。一帯は“伊勢志摩国立公園”になっています。もともと“海女のまち”として知られていましたが、この地がさらに世界に知られるようになったのは、世界で初めて御木本幸吉が養殖真珠に成功したことにあります(1893年)。今日“ミキモト”の名を知らない人はいないくらいですね。
鳥羽は、海岸線にあるアトラクションだけではなく、伊勢湾にいくつもの離れ島が点在し、坂手島、菅島、答志島、神島があり、それぞれの島は漁港を中心として伝統的な生活風景を見ることができノスタルジックな雰囲気を味わえます。
鳥羽の海産物と言えば、さわら、真鯛、しらすとなるでしょう。さらに、鮑(アワビ)、牡蠣、サザエ、そして、伊勢海老、マダコ、なまこがあります。海藻類も豊富で海苔、アオサ、ひじき、わかめもあります。
私もここへ来れば、海の香いっぱいの生牡蠣を堪能し、焼きサザエ、そしてシラス丼を頂きます。磯の風味のアオサ汁もいいですね。
海産物に恵まれているのは、自然豊かな山林、森などの栄養を豊富に含んだ水が木曽川、揖斐川、長良川、宮川などの河川から伊勢湾に流れ込んでいるからです。その栄養豊富な河川水と、熊野灘からの黒潮とが混ざり合い豊かな漁場をつくっています。南部沿岸の太平洋に面した複雑なリアス式海岸は、湾内の牡蠣やアオサ海苔の格好の養殖場ともなっています。
私は、観光客で賑わう鳥羽市内からいったん離れて、鳥羽駅から鳥羽マリンターミナルまで行き、フェリーで離れ島の一つ“神島”を訪れます。白波をたてて走るフェリーの甲板上で流れる遠くの景色を眺めながら海風に吹かれると、心も晴れ晴れとなります。1時間もすると島に着きます。周囲4キロの島を、汗をチョットかきながらぐるっと一回りするには、ちょうど良い距離になります。
島にはわずかな住民と、訪れる釣り人と数人の観光人くらいで、島はひっそりとしています。島の宿泊所と言っても一軒の小さな旅館があるくらいです。コンビニなどはありません。
そして神島は、三島由紀夫著の若く純朴な恋人同士の漁夫と海女の純愛物語を描いた「潮騒」の舞台となったところです。彼は、農林水産省OBの父親に作品舞台となる漁村の紹介を依頼したのですが、その結果、この島を選んでいます。映画化もされ、吉永小百合、浜田光夫主演の撮影現場にもなりました。
伊勢神宮へ来られる際には、リアス式海岸の絶景が広がり、多種な新鮮な海産物に恵まれ、さらには水族館、真珠の博物館もある伊勢志摩国立公園の鳥羽を、ぜひ訪れてみてください。きっと、いい思い出を作れるでしょう。