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デジタル版・新聞

楽園綺譚

夫が「セミ」を知らなかった話

夫が「セミ」を知らなかった話

家に入ってきた黒くて大きめの蛾。夫は見た瞬間逃走

日本人なら誰でも知っている夏の虫、セミ。先日、私の夫のジェイソンがセミを知らなかったという衝撃の事実が発覚した。YouTubeの日本の動画を観ていた際、ジェイソンが「このミェーミェーミェーミェー言う音はなんなの?」と言うので「セミ(Cicada)だよ」と言ったら、通じなかった。発音が違ったのかと思い、Googleでセミの画像を見せたところ、「長めのハエ?」と真顔で聞いてきたのである。

私は今までの人生で経験したことがない感じの、プラスでもマイナスでもない、平坦な何かが伴う衝撃を受けた。多くの日本人と同じく、私にとってセミといえば夏、夏といえばセミである。長年一緒にいるジェイソンが、私にとって海と同じくらい当たり前の夏の存在「セミ」を知らなかったことに衝撃を受けた・・・ということは「日本の常識は世界の常識ではない」ことを思う隙もなかったということだ。かつての夏、横浜のダイソーでカブトムシ飼育セットを見て「なんでゴキブリ捕獲セットがこんなにあるの?」と聞いてきた時もわりとショックだったが、今回のセミには及ばない。

ところで、セミやコオロギの声を聞いて季節を感じたり、そういう虫を飼って音を楽しむ習慣が伝統的にある国は、日本と中国だけと言われている。日本では、約1400年前の『万葉集』にコオロギの鳴く音が登場しているし、江戸時代にはコオロギを売り歩く虫売りという職業があった。中国では、同じくコオロギの声が約2500年前の『詩経』に登場しており、セミは数千年前から吉祥虫として復活の象徴とされてきた。現代の中国では、ポケットサイズの虫かごにコオロギを入れ、それを持ち歩きながら音を楽しむ習慣があるという。しかし、近世以来、西欧でもコオロギなどを飼って音を楽しむ人々はごく一部にいるようで、18世紀後半のフランスでは象牙の虫籠が作られていた。しかしやはり世界の多くの国々では虫の音は「単なる雑音」として捉えられているようで、『日本人の脳 脳の働きと東西の文化』(角田忠信・著)には、日本人は虫の音を言語優位の左半球で処理するが、西欧人は非言語優位の右半球で処理する、ということが記されている。

ここハワイでは、日系や中国系が多いせいか、ペットショップなどでスズムシを購入することができる。しかし、アメリカ本土ではやはり虫を獲ったり飼ったりする習慣はないようで、虫を飼うマニアックな人々は一般に「変人」とされているらしい。そういう訳で、西海岸出身のジェイソンは飛ぶ虫を特に恐れており、家に蛾が入って来た時、それが黒くて大きめだったので珍しいと思って教えてあげたところ、「キャッ」と短い奇声を上げて逃走。ゴーグルと上着を装着した上にホウキを持って再登場したのである。その真剣な表情から、うけ狙いではなく本当に危険を感じてのことだったようだが、日本人にとってはそんな人こそ「変人」と呼ばれるにふさわしい。

それにしても、こんな日常の些細なことで文化の差異を感じられるのは面白い。これからもこういうことは何かの拍子に出てくるのだろうが、その時は、またこの場をお借りしてご報告したいと思う。

楽園綺譚 

花胡椒 hanakoshou (ライター)

ブログ http://ameblo.jp/rakuenkitan/

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