2000年代半ば、ソウルの江南区で4年間、外国語学校で日本語を教えていた。日本の常識ではあり得ないことがいろいろあったが、最終章となる今回は際立って衝撃を受けた3つのエピソードをご紹介したい。

エピソード１　日本語を習う韓国人を相手に、日本語で日本の悪口を言う韓国人教師

学校に常時5人前後いた日本語教師の中には、なぜか常に韓国人の教師が1人混ざっていた。このポジションは私がいた4年間で3人代替わりし、全員女性で３０代半ばくらい。かなりの個性派揃いだったが、中でもラストの3代目が強烈だった。３代目は、日本語はもちろん堪能なのだが、日本が嫌いなのだという。さらにそれを日本語教師陣の前で発表してしまう、そんな人だった。日本語が堪能だけど日本が嫌いな韓国人の日本語教師の授業とは一体どういうものなのだろうか。気になったので、ある日、３代目が授業をしている教室のドアの前で立ち聞きすることにした。案の定、聞こえてきたのは日本へのネガティブ発言の数々。いつもの歴史問題、竹島問題に始まり「韓国の東側にある日本海は全世界共通で『東海』と呼ばれるべきである」「Koreaの Kは、JapanのJよりアルファベット順が後だからCoreaとしなければならない」「日本人に勝つには、まず日本語を理解することが必要」など枚挙に暇がなかった。授業の半分以上の時間を使ってそんな話を繰り広げるのもさることながら、韓国人の教師が日本語で日本の批判をし、それを韓国人の生徒が聞いているという構図に、もののけ的な異様さを感じたことを覚えている。

エピソード２　人種・性別によって給料が違うことが発覚

ある夜、一緒に飲みに出掛けたカナダ人、フランス人、日本人の同僚たちと生活費の話になった。私は「この学校の給料は月に120万ウォンだけど、食と住を提供してくれるからまあまあ余裕あるよね」と言ったら、白人のカナダ人が「え？僕の給料は140万ウォンだよ」と言い、ベトナム系のフランス人は「・・・私、110万ウォンなんだけど」と言った。その時点での個々の勤続年数は、カナダ人1年、フランス人1年半、私が３年半。さらに私の給料は３年半前から1ウォンたりとも変化がない。1日の勤務時間は全員同じ・・・。という訳で次の日、この件について語学学校のオーナーに説明を求めたところ「白人男性は一貫して生徒に受けがよく、英語は需要も高い」「あなたは国籍はフランスだけどベトナム系じゃないか。フランス人としてリアリティがない」というようなことを「そんなこと常識だろ？」みたいな顔で語り始めた。前々から薄々やばい奴だと思ってはいたが、これはさすがにない。私は「頃合いを見て辞めて、別の国に行くか日本に帰ろう」と思った。しかしその数ヶ月後、頃合いを見なくても自動的に辞めることができた。それが3つ目のエピソードである。

エピソード３　オーナーが夜逃げし、学校が強制終了

給料事件から数ヶ月後の秋の朝、いつも通り学校へ行くと入口に10人くらいの人だかりができていた。「どうしたの？」と言いながらドアを見ると貼り紙があった。そこには「借金を返せないので逃げることにした。後のことは任せる」という趣旨のことが英語で書かれていた。そんなわけで語学学校は強制終了、無職になると同時にビザも無効となり、無事韓国を出国せざるを得なくなった。それ以来、一度も韓国に行っていないが、ここで紹介したことだけでなく、他にも散々なことが毎日のようにあったというのに、十数年も経つと脳の神経回路が変化するのか何なのか、最近はまあまあ穏やかな気持ちで思い出せるようになった。いつかまた、あの混沌としたソウルの街を歩き、屋台でポンデギなど買いながら、その頃はまだなかった慰安婦像などを見学しに行こうと思う。