旅に出るには大体きっかけがあり、中には「そんなことで?」というようなものもある。自分でも呆れるが最初にパリを訪れたのは、夢で自分がバイクに乗りエッフェル塔を眺めていて、目が覚めたら実際に見たくなったからだった。ではイタリアは、というと…。
学生時代に“天使の世界”(マルコム・ゴドウィン著)という本と出会った。聖書や文学、絵画などに登場する天使について広く紹介する内容で“聖テレジアの法悦”という彫刻の写真を目にした瞬間、世の中にはこんなに美しいものがあって、こんなに神々しいものを造った人間がいたんだ!と稲妻に打たれた。修道女テレジアが天使と遭遇し、あまりの悦びで気絶しそうになっている場面だそうで、ローマでは、この彫刻があるサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会にさえ行ければいい。それほどの気持ちで臨み、かつて写真で見た際の何倍も感激した。
とはいえ、目の前は『永遠の都』と呼ばれるだけあって古代ローマ時代からの遺物が盛り沢山。映画“グラディエーター”で剣闘士や猛獣との戦いの舞台にもなった“コロッセオ”にはもちろん足を運んだ。外から見るだけでも十分だが、中の通路には兜や甲冑、膝当て、モザイク画などが展示され、いざ闘技場を見渡すと当時は床があり見えなかった、象やトラが飼われていたであろう地下部分まで見えたのもあり、その壮大さに圧倒された。
また、有名どころの“トレヴィの泉”も行っておこうと夜に回したが、ライトアップされた様子が美しく、むしろ昼間よりも良かったかもしれない。パンテオン神殿からぶらぶらと散策するのも楽しみ、小腹が空いたのでレストランを物色していると、いきなり呼び込みの店員さんが「おいでよ!」と断る間もなく手を引っ張ってきたのでついて行くと、物凄く良心的な値段の美味しいお店だったのもいい思い出だ。そこで食べた本場のモッツァレラチーズの味は未だに忘れられない。
旅にはきっかけがあると言った。次回ご紹介する都市も、やはり同じような感じだ。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/ラテン語で書かれた遺跡がたくさんあり、読めたらもっと楽しいだろうなぁと帰国後にラテン語教本を買いましたが、あえなく挫折しました。
(日刊サン 2021.08.13)