先日のこと。友人がオーガニックのトマトの苗をカップに入れて持ってきてくれた。片手にのるほどの小さな苗。突然、なぜ持ってきてくれたのかわからないままだったけど、なぜなのかという理由より持ってきてくれたことの方が嬉しかった。その日以来、大切に育てている。

　大きな鉢に植え替えをし、面倒をみていると1週間後には3倍ほどの大きさに成長した。毎朝、目が覚めるといちばんにバルコニーへ出てトマトの様子を見るのが楽しみになった。

　もうすぐに花が咲きそう。勢い良く、すくすくと成長していくトマトの苗。たくましい生命力だ。

　そんなトマトに最初の危機が訪れた。昨夜、大きなハリケーンの影響でマンハッタンも夕方から雨。夜になり本格的な大雨と強風。普段、外のノイズは聞こえないほど頑丈で分厚いガラス窓。その強固なガラス窓を越えてまで風と雨の音が激しく室内に伝わってくる。どんどん勢いを増していく音。そして洪水警報のアラームが携帯から鳴り響き怖さを強調してくる。

　トマトが！ バルコニーへ出てトマトを部屋の中へと移動させようとした。そのとき、夫がこんなことを言った。「自然のなかで育つ野菜や果物は生き残るもの、倒れるものさまざま。それが自然の摂理。トマトのチカラを信じてここは自然の流れに身を任せよう」。

　そうだ。台風や日照りや、自然のなかで育っていく動植物たちはつねに一定の安定した気候のなかで生きている訳ではない。農家さんたちの苦労を思うと想像を絶して敬意の念を抱いた。私たちがふだん何気なく口にしているものはすべて、さまざまな状況を乗り越えてやってきてくれているのだ。そう思うと感謝の気持ちでいっぱいになった。

　激しい雨風に、若い葉っぱたちがちぎれそうになりながらも粘っているトマトの苗。室内からそっと見守りながら、あらためて命の奇跡について考えることができた。

　嵐の夜があけ、夜明けとともに急いでバルコニーへと駆けでた。トマトの苗はしっかり堂々とそこに生きていた。ああ、本当によかった！ 近づいてさらに驚いた。なんと見事な花まで咲かせていたのだ。命のたくましさ、柔軟性とその生命力！ 深く感動した。

　こうやって地球上に生かされているものたちはいのちをつないでいっているんだ。空を見上げると、清々しい青空。まるで何ごともなかったかのように平和にのびのびと清い青が広がっている。嵐が激しければはげしいほどその後の好転も際立つ。

　「人生もおなじだなあ……」

　どこまでも続く澄んだ青空を見上げながらそんなことを思った、感慨深い朝だった。