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副社長就任

副社長就任

(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、会社が急きょ経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。その後メガバンク勤務を経て、経営企画マンとしてのキャリアを積むため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた

 

 2007年10月中旬。家電量販店の大株主が去り、その後釜に総合商社のM社が収まることになった。M社はこの提携の効果を最大化するため、2名の役員と1名の社員を派遣してきた。その受入準備などが盛大に行われる裏で、子会社であるISP社の臨時株主総会がひっそりと開催され、同社の副社長として私が選任されたのであった。

 今回の株主の変更騒動は多方面に波及した。その一つがISP社だった。もともとは、去った株主である家電量販店の戦略子会社であったISP社は、同量販店が資本参加した際にいわば物々交換のような形で当社グループに編入された。今回資本提携を解消する際、その去就が注目されていたが、わが社グループに留まることとなった。留まるには大義名分が必要。その大義名分の検討を一手に担ったのが営業担当の専務である。

 実は専務は、同量販店にて経営戦略の役員を務めていた。そして同量販店による当社への資本参加をリードした張本人。ところが資本提携の話を水面下で進めるうちに当社社長の人柄に魅了され、自身も当社に転籍してきた。後日専務が個人的に教えてくれた話だが、この株主の一大騒動には相当責任を感じていたようだ。ゆえに、前回寄稿したようにISP社をマーケティング会社として当社グループの中核会社に据えるという絵を描き、その戦略実現性を高めるために自身は本体の営業本部長の座を降りISP社の社長業に専念するという英断をした。そして戦略実現の第2の矢が私であり、専務の胸中を聞いてから毎日のように事業計画を共に詰めてきた。そしてISP社臨時株主総会の数日前、私の処遇につき最終調整している中で次のような提案を受けた。

 “本体を完全に退職し、ISP社の副社長として再スタートしてほしい”

 これは私の覚悟を内外に示すという意味では絶好の手であるが、別のアングルから見ると退路を断つことになり、万一失敗したら本体は私の雇用を保証してくれず、路頭に迷うことになる。しかし、どうせやるならとことんやってみようと専務の提案に賛同することにした。この時点で専務、もとい「社長」は真の意味で私のボスとなった。

 「おはようございます」。臨時株主総会の数日後、私は西新宿にあるISP社の事務所に出社した。事務所は非常に質素であり、設立時の“親”である前株主の量販店の価値観をふんだんに継承してるのが分かる。実力主義の会社であり、“一旗揚げてやろう”といういうギラギラした目をした社員が多くみられる。本体とは真逆の世界であるが、人生をかけた勝負をするにはこれくらいの環境のほうが良いかもしれない。

 こんなかたちで新副社長としてスタートを切った。メガバンクを退職しベンチャーに飛び込んでちょうど1年半のことだった。

(次回につづく)

No. 193   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

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