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【My Destination】第3章 「再挑戦」取引先の経営難 最終章
(前回まで)副社長を務めていたQAM社は、ジャパネットたかたという強力なパートナーを手中に収め、インターネット回線販売事業での天下取りが目前に迫っていた。ところがQAM社の事業を長年支えてきたIA社が資金難に陥いる。そして、2009年2月下旬。QAM社を訪れたIA社社長から自力での経営再建を断念することを伝えられた。即招集されたQAM社取締役会で、今後の対応が確認され散会となったが、胸中にあるものを社長にぶつけるのは今と、夜も更けた新宿住友三角ビルにある社長室に居残った。
「まだ何かあるのか、副社長?」と社長。「社長。今から私が言うことをよく聞いてください」。私は一呼吸置き、「この辺が潮時ではないでしょうか。いくらジャパネットたかたが加わったとはいえ、IA社が…」。ここで社長が遮った。「そんなことは百も承知だ。お前の本心はなんだ?」。「従業員とNTTを守るためです。今ならまだ従業員を守れます。NTTにも面子を保ったまま撤退作戦を行えます。でも、これ以上深手を負うと私も自信がございません」。社長は無言であった。このような時、彼はこれから展開される私の理論に対抗する準備を整えている時であることを、私は今までの経験から知っていた。
「だから一緒に金川社長(親会社であるQA社の社長)のところに頭を下げに行って、QAM社を吸収合併して頂けるようお願いしてみませんか。決して我々の敗北ではありません。従業員と取引先を親会社に無事移管できれば、誰がなんと言おうと我々の勝ちです。QAMの、我々の意志は彼らが受け継いでいきます」。こう口にした時、突如数年前の出来事がフラッシュバックとなって思い返された。当時、私の勤務先のメガバンクは、もう一つのメガバンクとの経営統合を目指していた。世間に対しては対等合併と謳っていたが、実質は我々が吸収される弱者の立場だった。それを知っていた行内の合言葉は“我々のDNAを新銀行に。”その時は、これをまるで他人事のように接していたのだが、今はそれに近いことを、自分が口にしている。“皮肉なものだ”と自嘲した。
「もしその選択をする場合は、どうやってケツを拭く?」と社長。「親会社に対して事実を話し、我々の実力不足と謝罪しましょう。私より下の役員と従業員には責任はありません。彼らが親会社に転籍しても一切引け目を感じさせないように我々が責任を負いましょう。そして、汚名は私が全て被っても構いません」。社長に目を移すと、社長は目に涙をためていた。「副社長は、それでいいのか?」。
私は、社長を真っ向から見つめこう言い切った。「はい。最初に副社長に抜擢して頂いた時から、いざという時は全責任を負うつもりでした」。時が止まったかのように感じられた。沈黙を破ったのは社長であった。「一緒に、夢を語りあったのが昨日のようだな、副社長。また、チャレンジできるかな?」。「はい。私はまだ社長を日本一の社長に出来ていませんので」。社長は笑っていた。その頬を一筋の涙が伝った。
翌日。渋谷明治通り沿いにあるQA社の社長室。我々は、金川社長が現れるのを平身低頭で待っていた。どんな罰も甘んじて受ける、その覚悟は出来ていた。
(次回につづく)
No. 205 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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