ハエがミツバチの役目を代行?!
昆虫の一種であるハエとミツバチ。前者は人々が嫌う害虫の一種で、後者は言うまでもなく人々に健康に良い美味しい「ハチミツ」提供する益虫である。ところが人間にとって嫌われ者であるハエが、まさか「働き者」のミツバチを「手伝う」補助関係をつくるとは、これは青天霹靂のニュースとなるのではないか?!
日本の岡山大学所属のベンチャー企業「ジャパンマゴットカンパニー」では、岡山市郊外にある倉庫内の大型冷蔵庫に設置した、緑色の金属光沢を持つ「ヒロズキンバエ」、いわゆる銀蠅が、常温25度を保つ衛生的な飼育ケースで蛹からすくすくと羽化しているのである。
動物の死骸やフンをエサにすることから不潔なイメージが強く、病原体の「運び屋」でもあるハエが、これほど程大事に育てられていることは、筆者は初耳であった。この特殊なハエに与える餌は食肉やドッグフード、砂糖水といった食品であり、もちろん衛生管理も徹底している。当地のハエの料金は1000匹2000円(税別)で販売されている。2010年の出荷開始から今年で10年目となり、取引農家は700戸に達しているという。
「一体、農家はこの様なハエを買って何に使うのですか?」
「これは良い質問です! ご周知のように、近年健康志向の強い日本人は、ハチミツを大量に消費するようになりました。ミツバチ(セイヨウミツバチ)が大量に必要となってきており、“不足状態”にあります」
日本での蜂蜜生産は「授粉」と「採蜜」両方からのミツバチの大量需要に追いつくことが出来ず、人間社会でいう「人手不足」が発生しているそうだ。ミツバチの供給大手の岐阜市にある「アピ」という会社がやむを得なく考え出したのが、ハエという代行者に「委託」することだった。これこそが日本人研究開発者による独自の知恵である。
ハエには帰巣本能がなく、一度放すと戻ってこないため、露地栽培の植物への授粉には向かない。さらにメロン、スイカやトマトなどの花の蜜を吸わないため、授粉の役割を果たすことができず、ビニールハウス内の植物に限定せざるを得ないのが唯一の欠点であるとのことである。
だが、ハエはミツバチに比べ体が小さく、花のめしべを傷つけにくい。寒さには特に強いうえ天候に左右されにくく、もちろん人を刺すこともないといったプラス面の特徴がある。
ハエは嫌われ者だが、生態系になくてはならない「分解者」であり、自然界の掃除屋でもある。地球上にあるすべての生き物には、それなりの生きて行くうえで相互補完的な役割があり、ハエも同様である。
日本の研究開発者によって嫌われ者のハエが、人類に役立つ生命力を蓄えていることが発掘されたことは、実に喜ばしいことである。この地球上にあるすべての生命には、まだまだ相互補完的な役割を発揮できる隠れた能力が潜んでいることを、このハエとミツバチの実例からみることが出来た。今後も、独特的な発想をもつ頼もしい日本の研究開発者に期待したいところである。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.200
早氏 芳琴