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デジタル版・新聞

Hurricane Iniki's Attack in 1992 コラム

【Hurricane INIKI’s Attack in 1992】30年前の手記より (2)

911日 ハリケーン・イニキ到来 Part2

 私のオフィスはカウアイ島リフエ空港の中にあった。私が住んでいたWailua Homesteadsというところは、カウアイの人ならだれでも知っている「Sleeping Giant」の裏側にあたる。

 家から勤務先のリフエ空港まで約13キロ(8マイル)ほど。車で20分ほどだったかと思う。Opaekaaの滝を通ったり、くねくねした道をドライブしたのを覚えている。家の裏側は広い牧場になっていて牛が放牧されていて、それはのどかな景色の中にいた。

 フェンス沿いの細い道を海の方向に向かってたどっていくとスリーピング・ジャイアントのふもと。よく散歩がてらその中に入っていった。季節になると野生のグアバが小ぶりだけどたくさんなっていて、直接手でもぎ取って食べることができる。口の中に広がる酸っぱさに顔をしかめたが、何だか自分が野生に戻ったような気がしてその気分を楽しんだものだ。家はコテッジハウス風の簡単な2階建て。結構気に入っていっていたなぁ。

 勤め先のホノルルからカウアイ島へ行ってくれと言われ、はじめは不安もあったけど、こうしてオアフ島以外の島に住むことができるいい機会を与えてくれた会社にも、そろそろ感謝し始めた頃でもあった。もっと長くこの島に居たかったけど、ハリケーンのおかげで仕事がゼロとなった。仕方なくまたホノルルに帰るのであるが、この島の太陽の光で織りなす山々がとてもきれいで見飽きることがなかったことが印象に残っている。ガーデン・アイランドと言われるほどに。

 家に帰っても、のほほんとしていられない。このハリケーンは大型だと聞いている。まず水の確保が一番である。バスタブに水をためる。万が一のためだ。窓や扉をチェックして必要であれば補強する。もう今から食料や車のガスを入れに行く時間はない。すでに道路が閉鎖されているのだ。仕方なしに家の点検をすることにするが、気ばかり焦ってどこから始めていいのか分からない。

 幸い私はスティーブというアメリカ人と同居していた。私が仕事で家のことができない分を、彼がしてくれていたのだ。持つべきものは「頼れる友人」だ。

 だいぶ風が強くなってきている。なぜか無性に口がかわく。鼓動が早い。落ち着くように自分に聞かせていてもだ。まだ嵐の前のほんの少しの「お遊び」だ。しっかりしろ! と自分に言い聞かせている。

 その時のことが次々と思い出される。あまりの激風で家の中で避難できる場所を探して、トイレのバスタブの横にいた時、横にあるトイレの水が、風がビュービューと通り過ぎるたびに上下に揺れ動いているのを、ただただ見つめていただけだった。

 何もできない。屋根が飛ばされようが、家が潰されようが、何もできない。「やっぱり予報は残念ながら正しかったんだ」と妙に開き直った思いが、吹き付ける風と雨から逃れるための方便でしかない、確実に得られるはずのない安心感に浸っていた。落ち着き払った訳の分からない混乱が私を襲っていたのである。風圧が容赦なく私の隠れ場所にも襲ってきているのである。時間が全く進んでいない。はやく暗くなってくれなければ、早く通化してくれなければ、もう支えるものすべてが吹っ飛んでしまいそうな風の音を聞きながら、ただただ震えているだけであった。

(つづく)

Yukio Waka

大阪で生まれ、20代後半まで大阪で暮らす。アメリカに渡り、ニューヨーク、サンフランシスコを経て、ハワイへ。ホノルルで旅行会社に勤務中、カウアイ島への出向を命じられ赴任する。イニキ災害の後、ホノルルに戻り、ハワイ島に出向。ハワイ島の魅力に取りつかれ、現在に至る。

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