私の住んでいる住宅地の外れには、ヘイアウがある。
ヘイアウというのは、ハワイの神殿のこと。ハワイが西洋化する前の聖地であり、今でも各地に残っている。とはいえ、残っているのはほとんどが神殿の土台の部分だけ。黒い溶岩が四角く積み上げてあるだけなので、知らなかったら気づかないかもしれない。
レイバーデイ(祝日)の前日の日曜日、ふと思いついて我が住宅地のヘイアウに行ってみた。この住宅地に住んで7年。何度もそのヘイアウを探しに行ったことがある。地図にも載っている。道の名前にもなっている。だがしかし、たどり着けたことが一度もない。どういうわけだか見つからないのである。
住宅街の一番海側、道路の終わりのところに車を停めて、いざ出発。3連休のため、地元の大家族が盛り上がっている。犬の散歩や、釣りをしている人もチラホラいる。ここには道がないので、岩場を歩くか、ジャングル内を歩くかの二択になる。
夫とふたり、岩場を歩く。空も海も青い。波が岩壁に当たって砕ける。海水浴をしている人はいない。
マコトに硬派な海の眺めである。いつもと同じく、すぐに歩きづらくなる。でも今回はもう少し先まで進んだ。
遥かかなたには、隣の集落が見える。おそらく5キロは離れているはず。あそこまで歩いていけるのだろうか? 行けるのだろう。でもヘイアウはそこまで遠くないはず。地図上のヘイアウ地点は、こちらの住宅街のすぐ近くなのだから。
結局、ヘイアウは見つからなかった。岩場にも内陸にも、それらしき建造物はない。ヘイアウはたいてい見晴らしのよい場所にあるので、見落とすとも思えない。もしかしたら、かつて存在していたけれど、今はもう残っていないヘイアウなのかもしれない。
我々は岩場に座って海を眺めた。平和な日曜日の昼下がりであった。
さて、この話には後日談がある。
今、このコラムを書きながら、地図を確認してみたところ、ヘイアウが載っていない!
こはいかに。何者かが、私の地図からヘイアウを消したのだろうか? 謎は深まったのであった。
No.250
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
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