「明日死ぬかどうかーそれは俺達にはわからないだろう?だから、今日という日を大切に過ごすんだよ」。ナイル川に沈む夕陽を、ひとり船べりに腰掛けうっとり眺めていると、ファルーカ(帆船)の船長がそう語りかけてきた。あまりの唐突さと啓示のような言葉に驚いたが、非常に感銘を受けた。
“ギザの三大ピラミッド”、古代エジプト王達が眠る“王家の谷”、ツタンカーメンの黄金のマスクが展示されている“考古学博物館”、その他いくつもの神殿が点在しどれも素晴らしかったが、最も感動したのは“アブ・シンベル小神殿”だった。隣国との戦争に勝ち続けて領土を広げ、九十歳まで長生きしたラムセス二世。神殿は、彼が愛した王妃ネフェルタリに捧げたもので、内部の王妃のレリーフは保存状態が良く、色彩も残りとても美しく描かれていた。王と王妃は、三千年後もこうして愛し合った証が遺され、多くの人間に見られることを知っていただろうか?
アブ・シンベル神殿 |
また、シナイ半島にある“聖カタリナ修道院”は、旧約聖書の中でモーセが燃える柴の中から神の声を聞いた場所に建てられたといわれ、神聖視されている。彼はこの後イスラエルの民をエジプトから約束の地へと導いた。このような重要な宗教的史跡に来られたことは、とても意義があった。
聖カタリナ修道院 |
食事は、細長い米や短いパスタにトマトソースをかけたコシャリや、現地では高級な鳩など伝統料理を食べたが、暑さのせいか食欲がなく、ひたすら『サッカラ』や『ステラ』というエジプト産ビールを飲んだ。ピラミッド建設時既にビールは存在していたので、労働者達も汗を流した後に冷えたビールをグビっとーいや、その頃冷蔵庫はなかったなと少々気の毒になった。
エジプトの食事 |
なお、土産物にはベタだがジャッカルの頭のアヌビス神や猫のバステト神、ハヤブサのホルス神などの置物は、少々重たいが部屋で強烈なインパクトを放ってくれるのでおすすめ。そういえば「次はハネムーンにおいで」と言った船長との約束は、未だ果たせそうもない。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/極度に乾燥していて気温50度近くでも暑く感じなかったのですが、知らないうちに脱水状態になるようでスポーツドリンクは常に持参でした。
(日刊サン 2020.4.2)