遊園地の思い出のはなし その1
私が小さい頃、父が不規則な仕事をしていたこともあり、家族みんなで揃ってお出かけ、ということはあまりなかったと記憶しています。特に、前々から「この日は家族で出かけるぞ!」ということはほとんどなく、たまのイベントも、父の仕事の都合に合わせて突然訪れるものでした。
そんな日は、目一杯のおめかしをして、誰よりも早く車に乗って。道中スーパーに寄って、いつもは100円分しか買ってもらえないお菓子を特別に好きなだけ買ってもらって、いつもは禁止されているコーラやジュースも買ってもらって、後部座席に座って目的地を待ちわびたものでした。
とはいえ、四国は香川県、それも20年以上前の話です。ディズニーランドのようなテーマパークがあるわけでもなし、大型のショッピングモールがあるわけでもなし。海や山には恵まれてはいましたが、ハワイローカルにとってのダイヤモンドヘッドやワイキキビーチのような身近な存在ではなし。平たくいうと、「遊ぶところ」はあまりなかったような気がします。
そんな私にとって、一番楽しかった場所は「吉野川遊園地」。ある年齢以上の、それも四国の一部の方にだけは異様に馴染みのある名前だと思います。徳島県にかつてあった小さな遊園地で、残念ながら、約10年前に惜しまれつつも閉園してしまいました。跡地には吉野川医療センターという大きな病院が建設され、地元の方々の健康に寄与しているとのこと。
ちなみに「吉野川」とは、高知県と徳島県に流れる、それはそれは見事な川。日本三大暴れ川の一つにも数えられ、時として自然の脅威を我々に知らしめてくれる川でもあります。
そんな吉野川の名前を冠する近く遊園地は、私の住んでいたところからは車で山と県境をこえて、そうですね、2時間くらいかかっていたでしょうか。当時はETCもなく、高速道路の入り口で、おじさんにチケットをもらって、出口で現金払いするシステム。私はそのおじさんのいるゲートが、楽しい世界への入り口のように思えてなりませんでした。いつも乗っている車も、この時は遊園地に向かって猛スピード。ちょっぴり怖いけれど、ビュンビュン流れていく防音壁を眺めながら、「いつ着くの」「まだ着かないの」と連呼していました。
高速道路を降りてから目的地に着くまでが、ゆっくりと感じることと言ったら! けれども、防音壁だけの世界を抜けて、街が見えてくると、これまた違う世界に迷い込んだような、いつも住んでいる香川県とはどっこいどっこいのはずなのに妙に都会に感じたり。長距離ドライブに飽きてきた私には、とても刺激的でした。
(次号に続く)
CAN OF ALOHA No.33
金平 薫 (Kaoru Kanehira)
香川県出身、現在はハワイ某所にて武者修行中。 日々のあれこれを、ゆるりとお伝えできたら幸いです。美味しいものには目がありません。 なんでもない毎日は Instagram:kaoru_channel をご覧ください。