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デジタル版・新聞

木村伊量の ニュースコラム

【ニュースコラム】さらばメルケルさん 出でよ、日本の女性リーダー

欧州連合(EU)の顔として、自由と民主主義の守護神として、16年間にわたってドイツを率いたアンゲラ・メルケル首相の退任式が12月2日、ベルリンの国防省で行われました。

旧東ドイツの出身で、牧師の娘にして物理学者。彼女が退任式で軍の音楽隊が演奏する曲に選んだのは、同じ旧東ドイツ出身の人気パンクロック歌手ニナ・ハーゲンさんのヒット曲『カラーフィルムを忘れたのね』(1974年)でした。

せっかくの旅なのに恋人がカメラに白黒フィルムを入れてきて、おかんむりの若い女性。冷戦時代、東ドイツの物不足をあてこすった歌とも言われますが、なぜこの曲を選んだのか問われたメルケルさんは「この曲はわたしの青春時代のハイライトだったの」と答えました。

ベルリンの壁が壊れる前の年1988年の晩秋、当時の西ドイツを取材で訪れたときのことです。

北部ニーダーザクセン州の州都ハノーバーのイタリア料理店で、社会民主党(SPD)の幹部だったゲアハルト・シュレーダーさんにご馳走にあずかりました。シュレーダーさんは「緑の党」で環境保護活動する娘さんから、家に帰れば「パパは中途半端なの。もっと環境保護政策に力を入れてよ」と責められることをボヤきながら、「これからのドイツは間違いなく、女性が引っ張っていく時代になると思うね」と予言しました。

シュレーダー氏はその後、ドイツの連邦首相を7年務め、彼の次の首相になったのがキリスト教民主同盟(CDU)のメルケルさんでした。

安定した政治手腕が高く評価されたメルケルさんの退場で、ドイツは、そしてEUは、どこへ向かうのか。気がかりですが、世界を見渡すと、女性リーダーがいるわ、いるわ。

知名度が高いところでは、ヒラリー・クリントン元米国務長官、ジャネット・イエレン現米財務長官、水際立った新型コロナウイルス対策で名を上げた台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相ら。

まばゆいばかりの輝きを放つのが北欧諸国です。スウェーデンでは12月に女性のマグダレナ・アンデション社会民主労働党党首が首相に就任。アイスランド、フィンランド、デンマークも女性の首相。ノルウェーでもこの10月まで女性首相でした。地球温暖化防止を訴えるスウェーデンの活動家グレタ・トゥンベリさんは、18歳の若きリーダーです。

スウェーデンでは女性に選挙権が認められ、初の女性の国会議員が誕生してから今年で100年。閣僚の半分が女性という国も珍しくありません。

そこへゆくと、日本はなんともお寒い限り。安倍晋三元首相は「女性活躍推進」を打ち出しましたが、まったくの看板倒れ。10月の総選挙で当選した女性国会議員の割合はわずか9.7%。列国議会同盟(IPU)によると、世界平均は25.5%。日本は遠く及ばず165位に沈んでいます。

スポーツや芸術など、海外で縦横に活躍する若い女性は増え、グローバル企業での女性役員の数も伸びてはいます。でも、しばしば聞かれるのは「日本女性を代表するロール・モデルが見当たらない」という声です。

わたしの個人的な感想を言えば、ここ30年ほど、圧倒的な力量を持つ日本の女性代表として尊敬を集めてきたのは、日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんでしょう。世界の紛争地の最前線や難民キャンプに、四輪駆動車に揺られて小柄な体を運び、難民支援に身を捧げてきましたが、残念ながら2年前に92歳で世を去りました。

英国のオックスフォード大学での講演の後での質疑応答が、印象に残っています。

聴衆のひとりから「あなたは女性なのに、どこにそんなエネルギーがあるのか。厳しい現実の前に、なお理想を追求できるのか」と尋ねられると、緒方さんは「女性か男性かは関係ないことです。人間として何ができるか、それだけを考えています。理想はありますが、わたしがやれることは限られています」。にこりともせずに答え、次の質問を求めた凛とした姿が思い起こされます。

出でよ、世界を切り開く次世代の女性リーダー。

(日刊サン 2021.12.20)

木村伊量 (きむら・ただかず)

1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章(CBE)を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。

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