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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】徳島・上勝町から、「ゼロ・ウェイスト」運動を世界に

生まれ故郷の徳島県には、自慢できるものがいくつもある。徳島出身と自己紹介すると、まず話題は阿波踊りになるが、スダチ、ワカメ、なると金時、阿波尾鶏など豊かな食の文化や、充実したインターネット環境を活用して東京などからサテライト・オフィスを呼び込んでいる神山町の存在などがあげられる。その中で今回は、ゴミ・ゼロを目指す先駆的な取り組みでメディアなどに取り上げられることが多い上勝町(かみかつちょう)にスポットを当てたい。

徳島県中部の山間部に位置する上勝町が最初にスポットライトを浴びたのは、第三セクター企業「いろどり」による「葉っぱビジネス」だった。山深い自然の中から、料亭などで刺身の「つま」などに使われる葉っぱを、高齢の女性が採取し、都会に出荷する。過疎の町で農協(JA)の若い職員が1986年に発案した「葉っぱビジネス」は、年収1,000万円のおばあちゃんが誕生するなど一躍、有名になった。パソコンやタブレット端末で市場情報を共有する高齢女性の活躍は、映画「人生、いろどり」(2012年公開)に再現され、吉行和子、富司純子、中尾ミエさんらが出演、筆者も楽しく拝見した。

上勝町では「葉っぱビジネス」と並行して、2003年に「未来の子どもたちにきれいな空気とおいしい水を残したい」とゼロ・ウェイスト宣言を公表した。それから17年。「ゼロ・ウェイスト」は、ゴミ・ゼロの概念を一歩進めて、「浪費・無駄・廃棄物をゼロにする」取り組みとして、今年度のふるさとづくり大賞・最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受賞し、2030年に向けて新たな「ゼロ・ウェイスト宣言」を採択した。新宣言も「未来のこどもたちが暮らす環境」を第一に考えて行動する理念を掲げる。

上空から上勝町を見ると、山間部にクエスチョン・マーク(「?」)の形をした赤い建物が見える。ここが「ゼロ・ウェイストセンター」で、建物の頭の部分がゴミ分別所とストックヤードになっていて、ゴミを13品目、45種類に分別する。家庭の生ごみはコンポストを活用して自家処理し、人口約1500人の町では、80%を超えるリサイクル率を達成している。町内ではゴミの回収はせず、町民が自ら処分場へゴミを持ち込む。ゴミの持ち込みが難しい高齢者には2ヶ月に1度、回収をサポートする。

センターには「くるくるショップ」もあって、無料リサイクル・ショップとして機能し、建物の「?」の点の部分にはホテルが設けられている。かつて林業の町だったことを反映し、地元で生産された木材を使って山小屋風のつくりになっていて、ここで宿泊者はゼロ・ウェイストを体験できる。使い捨てのアメニティーはなく、分別用のゴミ箱が6種類、用意されている。

いまは世界的にも注目される活動の前史には、学ぶべき点が多い。1997年までは野焼きの時代で、現在のステーション付近では生ごみ、布団、タイヤなどが燃やされ、住民は黒煙と悪臭に悩まされた。町では小型焼却炉を導入して対応したが、焼却後に残る灰の処理に困り、リサイクル、分別へと進んだ。ボランティアグループ「利再来(リサイクル)上勝」が誕生し、分別してセンターに持ち込めないお年寄りのところを車で回った。焼却炉の使用はダイオキシン発生などで規制され、リユース、リデュースへと舵を切る。「ゼロ・ウェイスト」実現に大きな影響を与えたのが、米国人化学者、ポール・コネット博士で、その講演が決定的なきっかけになったという。

センターが発信する動画や報道資料で活動を振り返ると、運動は女性の手によって支えられていることがよくわかる。その一人に、カフェ・ポールスターを経営し町のゼロ・ウェイストタウン計画策定事業を委託されている東輝美さん(33)がいる。町職員だった母ひとみさんは、焼却炉による処分法がダイオキシンの法規制によりストップした時代に、分別の研究などに熱心に取り組んだ先駆者だった。彼女は2013年に亡くなり、輝美さんはその直後からカフェをオープンして「ゼロ・ウェイスト」に取り組んできた。

「上勝町を五感で感じられるショールーム」と位置付けたカフェでは、環境を大切にし、地元で生産される野菜などをメニューのメインにして、自分たちが取り組む理念を、内外から訪れる人たちに発信してきた。おしぼりやストローは出さない。「Think global, act local(地球規模で考え、足元から行動しよう)」という言葉で、その活動を説明する。

カフェ開店から8年が経ち、分別が目的になって楽しくないと感じる状況も認識している。彼女は今年から店頭には立たず、誰もが学べる仕組みづくりを目指す場を試行錯誤し始めた。「ゼロ・ウェイスト」は新たな段階に挑戦しようとしている。

四国では香川県・豊島の住民たちが、産業廃棄物投棄で「ゴミの島」になった故郷に美しい自然を取り戻すため、永年、闘ってきた。一人一人が行動する意味を、二つの事例から噛みしめたい。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2022.3.16)

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