外国との往来が制限されるコロナ禍の現在ですが、2月20日にラグビーのトップリーグが満を持して開幕しました。「満を持して…」というのも、当初は1月16日に東京五輪の会場として新設された国立競技場でシーズン初戦が予定されていましたが、その数日前に複数の強豪チームで選手やスタッフが、コロナに感染。開幕が1カ月以上延期され、仕切り直しで迎えた待望の新シーズンだったからです。
世界のスーパースターが続々日本へ
一昨年に日本で開催されたラグビーW杯は大成功のうちに終わり、国内のラグビー人気も一気に上昇しました。その余韻は続いており、今季のトップリーグには、世界の強豪国の現役バリバリの超一流選手が相次いて移籍。ラグビー王国ニュージーランド(NZ)で19年のW杯時に主将だったリード、同じくオーストラリアの主将のフーパーが共にトヨタ自動車に加入。W杯で日本と激闘を見せたスコットランドの元主将のレイドローはNTTコムへ。南半球の選手が自国のシーズンオフの期間に、北半球へ〝出稼ぎ〟にくる裏事情もあるのですが、過去にない豪華な顔ぶれ。中でも注目は、オールブラックス(NZ代表チームの愛称)の司令塔SHにして、試合前のハカの儀式でリード役としても有名なTJペレナラが、NTTドコモへの移籍を決断したことです。
私もW杯時のイベントで、東京・日本橋界隈を散策するオールブラックスを取材。鰹節店や小さな神社を彼らと一緒に見学しました。日本の文化にも真剣に耳を傾け、敬意を払うペレナラの姿に、真の一流アスリートの姿を超えた人間的な素晴らしさを感じ、元スポーツ記者として、以来目が離せなくなりました。
スタジアムでプレーを堪能
開幕戦ではそのぺレナラを一目みようと、町田のスタジアムで現地観戦。味方の胸元に正確に届くパスやそのスピード、80分間司令塔として献身的に仲間を鼓舞し(英語ですが)、グラウンドを走る姿を同じ空間で堪能できただけで大満足でした。毎年下位リーグへの降格争いをするドコモですが、今季はその後も開幕3連勝と生まれ変わったような存在感を見せています。
ラグビーのハカとハワイのフラ
トップリーグの試合で披露する機会はないものの、ペレナラが他の選手と一線を画すところは、やはりハカのチャント役であることです。人格・プレーとも素晴らしく、先住民のマオリの血を引く選手にしか許されない大役。私は試合前のこの緊張感でヒリヒリするような男の儀式をみると、いつも古典フラのカヒコを思い出します。どちらもポリネシアがルーツの、古代神々や先祖に捧げる伝統のパフォーマンス。オールブラックスは、昨年秋のアルゼンチンとの代表戦前に、その直前に急死した相手国のサッカーの英雄マラドーナへ捧げた追悼のハ
カでも、世界中に感動を呼びました。
マオリへの神聖な思い
ペレナラもあるインタビューで「ハカは自分にとって最も大切なこと。敬意を表すパフォーマンスの象徴で対戦相手だけでなく、家族とマオリやNZの人々にメッセージを伝えるものなんです。ハカを披露することで、マオリやオールブラックスについて、もっと理解してもらえるようにと思っています」と話しています。彼のツイッターには英語の前に、マオリ語が出てくるときもしばしばあります。いちラグビー選手としてだけでなく、娘が通ったハワイの小学校にいらした雰囲気満点でオーラ漂うフラの「クム」の姿にも重なります。
辛い日々が続くコロナ禍の年に世界各国から、スーパープレーヤーが集結したラグビー。海外とのつながりを感じる機会が減った今だからこそ、ラグビーの神様が日本に遣わした贈り物を堪能したいと思います。
東京・大手町発 マスコミ系働き女子のひとりごと Vol.32
(日刊サン 2021.2.13)
竹下聖(たけしたひじり)
東京生まれ。大学卒業後、東京の某新聞社でスポーツ記者、広告営業として15年間勤務後、2012年〜2014年末まで約3年間ハワイに滞在。帰国後は2016年より、大手町のマスコミ系企業に勤務。趣味はヨガと銭湯巡り。夫と中学生の娘、トイプードルと都内在住。
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