新型コロナウィルスの差別のこと
新型コロナウイルスが流行り、命をかけて私たちを守り続けてくださっている医療関係者のみなさんや、長距離ドライバーさんやご家族に対して、差別があるということを聞くと、胸がしめつけられるように痛くなります。また、感染することは、誰がなるかわからない。自分だったかもしれません。感染された方やご家族が差別されると聞くと、やっぱり悲しくて涙がこぼれます。
でもわたしはそう思いながら、心が迷子になりそうになるのです。私が教員になったころは、もう40年も前なので、今とはずいぶん違っていました。脳性麻痺で体が不自由になられた方が多くおられた学校でした。子供達の障がいは、感染ったり(うつったり)はしないのですが、触ると感染るといわれることが問題になっていて、そんな差別はいけないといわれていたのです。
私はそのとき、世の中には感染る病気もたくさんあって、その方は、「感染らないのだから、差別しないで」という言葉を聞かれて悲しくならないのかなと思いました。
それからしばらくして、エイズという病気が広がりました。中学生の道徳の人権の授業で「手をつないでも感染りません。だから、教室で差別してはいけない」ということが言われていたときに、感染る病気をお持ちの方はどうしたらいいのだろうと思いました。
私はそんな中で、感染るということについての差別、感染らないからという視点でいいのかがわかりませんでした。
今年の初めのごろ。まだ武漢だけで大きな感染が起きた頃、高知へでかけたのです。朝のテレビでサッポロ雪祭りの映像が映っていました。インタビューを受けておられた方が「家族で武漢からきました。日本は安全なので」という放送がありました。私は「怖い」と思ったのです。
そして、ロビーに降りた時に、中国語を話される方がおられました。咳をされたのです。そのとたん、私は、顔をさっと背け、さーっと後ろにさがってしまいました。その方を傷つけなかっただろうかと私はその日、何度も思いました。
感染るとか、触っても感染らないとか正しい情報を知ることは大切だけど、一番大切なのは、エイズのときの授業でもどんなときも、人の悲しみを知ることなのかもしれないなあと思いました。でも、自分を感染から守りたい。感染をひろげたくないという思いがあるからこそ、家にいて、人ごみを避けるのだとも思います。
けれど、医療関係者のみなさんや、長距離ドライバーさんやそのご家族に対して、差別があってはならないと思うのです。また、先にも書きましたが、感染することは、誰がなるかわからない。自分だったかもしれません。
差別と感染の恐れ、自分の心がわからなくなりそうだけど、そんな中、何度も思うのは、感謝の気持ちと、そして、相手の方の心の痛みを思いながら、悩みながらもこれからもいたいということです。
山元 加津子
1957年石川県金沢市生まれ 富山大学理学部を卒業後、特別支援学校の教員と、作家活動をしてきたが、2014年に教員をやめ、2012年に立ち上げた障がいを持つ方もそうでないかたもみんなで幸せになろうと「白雪姫プロジェクト」を立ち上げ、その中で意識障害の方の回復の方法と意思伝達の方法などを伝えている。