日本の友人から「84, Charing Cross Road」と言う本を読んだと聞き、地元の図書館から借りて読んでみました。わずか94ページの薄っぺらな書籍で、古本屋さんとある作家の古書の注文のやり取りを集めた本です。活字でいっぱいではないので、気楽にスラスラ読める本としておすすめです。
この本は第二次大戦後にニューヨークに住む作家(ヘレーヌ)が新聞広告に載っていたロンドンにある古書店に自分の欲しい本があるか問い合わせることから始まります。その古書店があったのが本の題名である「チャーリング・クロス街84番地」でした。その書店にはヘレーヌが希望する本のリストの中から何冊か在庫があり、ニューヨークのヘレーヌにその本を送り届けられました。そこからこの作家とその書店との手紙のやり取りが始まり、ほぼ20年間続きました。
物不足だったイギリス
この本を読みながら、今の若い人には戦後の「物不足」がよくわからないだろうなって思いました。戦勝国だったイギリスですら「物不足」で食料が配給制度になっていたようです。それを聞きつけたヘレーヌは肉とか入手しにくい食料品をその商店に送ります。その古書店の人達が贈り物に歓喜したことは、容易に想像できます。ヘレーヌはあまりかしこまらないで、ごくざっくばらんな手紙のやり取りをしますが、古書店の責任者(フランク)は極めてイギリス風というか形式ばった手紙を出していましたが、次第に心を開き、自分の家族のことや、店に働く人のことなど話していきます。
またこの本屋さん、前金なしにいきなり本を、それもアメリカまで送ってしまうとはちょっと驚きです。どんな通信販売でも前金が前提ではないでしょうか? その本を受け取ってヘレーヌは大喜び。そしてすぐに現金をアメリカドルで送るのですが、外貨(ドル)を自国通貨に交換しなくてはならず、本屋にしてみれば余計な手間だったろうと思われます。それと現金だと紛失する可能性がありますね。ヘレーヌはそんなことは意に介してないようですし、ロンドンのこの古書店も客が喜ぶことを第一にしている雰囲気が伝わってきます。
そのうち手紙のやり取り(本の注文)は顧客と古書店の関係を超えていきます。彼女の飾らないユーモアに満ちた手紙はお店の人達で回し読みされ、お店の人達は手紙を心待ちにするようになったのでしょう。責任者フランクに内緒で他の店員が注文の書籍に個人的な手紙を入れます。その人は店内の様子や店内でヘレーヌのことを話題にしていることや、ロンドンに来ることがあれば、案内するとか部屋を用意するとまで書かれた個人的な手紙をもらうほど親しくなるのです。
商売をしていると時にはその商売を超えて客と親しくなったり、客から思わぬ感謝をされることがあります。それが仕事の励みや喜びにさえなります。この本の古書店と客の関係もそんな温かみを感じされるものでした。この本は1990年に発行され、映画化もされました。
とどけMahalo! アメリカ本土便り No.144
大井貞二(おおいさだじ)
1988年にハワイに移住。地元の私立校で日本語を教える。その後、ハワイ大学大学院を経て、ハワイパシフック大学(HPU)にて世界中からやってくる学生に日本語を教え、最近退職。現在アメリカ本土に居住。
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