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【高尾義彦のニュースコラム】イチョウ並木はどうなる 神宮外苑再開発に注目

 秋が深まる11月に入り、明治神宮外苑のイチョウ並木を歩いた。外苑の一角に新設された3代目日本青年館のホールで財団設立100周年を記念した世界最高峰のピアノデュオ、クトロヴァッツ兄弟のコンサートに招かれた機会に、色づき始めた並木の散歩を楽しんだ。黄葉は月末にかけて見頃を迎えるが、外苑地区で進められようとしている再開発計画の行方が気になり、手放しには楽しめない気分だった。

 神宮外苑は1926(大正15)年の創建以来、実業家渋沢栄一の呼びかけなどで寄付や献木を受け入れて造成されてきた。都心の緑やスポーツの拠点として愛され、個人的な思い出としては、絵画館前に広がる草野球場で早朝の社内対抗野球を楽しみ、グラウンドを囲む桜が記憶に残る。

 外苑の再開発計画に最初に疑問を感じたのは毎日新聞記者だった後藤逸郎さんが20204月に上梓した文春新書『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』を読んだ時だった。新書によると、2019年に三井不動産などが主導する「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」の計画概要が初めて明らかになった。再開発の対象地区は、東京五輪・パラリンピックのメイン会場となった新国立競技場南側一帯で、総面積は新宿、渋谷、港の3区にまたがる66ヘクタール。秩父宮ラグビー場、プロ野球・ヤクルトスワローズの本拠地、神宮球場、伊藤忠商事東京本社などを建て替える計画だ。 

 それ以前に東京都は外苑地域にあった都営霞ヶ丘アパートの移転などの計画を2012年から約300世帯の住民の意思は事実上無視した形で進め、政府や国会議員、関係企業の思惑が交錯する中で、五輪開催を錦の御旗に、再開発が進められてきた。その過程では、森喜朗元首相、萩生田光一文科相(当時)、歴代都知事の名前やそれぞれが果たした役割が取りざたされている。この地域は都心に残された大規模な再開発対象地域としては最後ともいえる環境にあり、自然保護より経済的利益を優先させる発想が透けて見える。

 主な計画は、現在の神宮球場、ラグビー場などを解体して、その跡地に場所を交換する形で、新たな施設が建設される。かつての草野球場は、最近はイベント広場などに使われているが、テニスコートになる。事業者は、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4者で、対象地域にはスポーツ施設のほか、これまでなかった高層ビル2棟も建設され、伊藤忠本社は19階建てにする計画で、事業者側は2036年の完成を見込む。

計画では当初、地域内の樹木の約半数に当たる971本を伐採するという案が示された。これに対して、文化財保護に関する活動を担う「日本イコモス国内委員会」や街路樹の保護を求める市民団体から伐採反対の声が上がり、伐採本数は当初計画から4割減らして556本に変更した。

 焦点のイチョウ並木については、4列に植えられている並木は切らずに保全すると事業者側は説明しているが、並木に隣接して建設される計画の新野球場は、西側2列の間にある歩道から8メートルしか離れていない。このため球場建設に当たって地下に設置されるくいなど基礎工事は、イチョウ並木ぎりぎりの位置で実施されることになり、地下深く伸びた根が分断されたり、栄養や水分が十分に補給されず枯死する懸念が指摘されている。

 事業者側は、イチョウに近い部分の掘削は深さ2メートル程度に抑えて根の損傷などの影響を極力少なくする案を示した。しかし8月に開かれた東京都環境影響評価審議会は、計画を認める答申に、「今後の事業者の環境保全措置に継続的に関与する」と異例の一文を付記して、今後の対応を注視する姿勢を明らかにした。これに対して三井不動産は10月に、イチョウ並木とは別に、新たに全体で837本の植樹計画などを公表、「みどりの継承・再生・創造」に配慮する姿勢を明らかにしている。

 港区観光協会のホームページなどで改めて確認すると、イチョウ並木は約300メートルに146本、ほぼ9メートル間隔で植えられ、青山通りから絵画館に向かって高低差や遠近法を利用して、黄金色のトンネルの美観が楽しめる。東京帝大卒で明治神宮造園技師も務め、「近代造園の師」と言われた折下吉延博士が設計した。

 東京五輪をめぐっては、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の高橋治之元理事が受託収賄容疑で逮捕され、紳士服のAOKIホールディングス、広告大手のADKホールディングス、出版大手のKADOKAWAなどにも波及し、東京地検特捜部はいまも捜査を続けている。特捜部の狙いが、電通出身の高橋元理事によるスポンサー契約などをめぐる疑惑の解明で終わるのか、それとも再開発計画に関して政治家が不当に関与した事実はないのか、疑念を抱く声も聞かれる。

 新鮮な空気を吸って神宮外苑の爽やかな秋を楽しめる環境が今後も維持されてほしいと願うのは、筆者だけではないだろう。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


 

(日刊サン 2022.11.16)

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