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コラム マスコミ系働き女子のひとりごと

【竹下聖のラグビーコラム】先生ラガーマン、仲間とともに前へ

 未来ある選手のデビュー戦に立ち合うのはいつだって、胸が高鳴ります。異色のキャリアを背負い、自ら道を広げてきた選手の記念の一歩ならなおのこと。101日に東京・北青山の秩父宮ラグビー場で満員の2万人を集めた日本代表フィフティーン対オーストラリアA代表の試合で、国立の鹿児島大出身のSO中尾隼太が、JAPANの背番号「10」を背負い、晴れ舞台に立ちました。

司令塔のポジション争い激化

 中尾は試合開始2分に、キッカーとして43メートルのロングPGを落ち着いて決め、先制点を呼びみます。その後も持ち前の体を張ったタックルを連発。攻守のつなぎ役として試合をコントロールする司令塔のSO(スタンドオフ)は、前回W杯では端正なマスクの田村優が不動のレギュラーでしたが、現在はポジション争いが激化しています。田村も秋の代表合宿後にメンバー落ちし、27歳の中尾にチャンスが巡ってきました。

小学校の教師の道から一転

 高校ラグビーの名門で、県内屈指の進学校の長崎北陽台出身。卒業後は関東や関西のラグビー強豪大学へ進む道もありましたが、「小学校の先生になりたい」と自らの夢を追い、鹿児島大学の教育学部に進学しました。代表級の選手としては異色ですが、教員採用試験受験を目指していた4年時に東芝(現BL東京)のスカウトの目にとまり、リーチ・マイケルなど多数の日本代表を擁する名門に入部しました。

来年9月にワールドカップフランス大会に挑む日本は、今秋他国と強化試合6連戦を控えます。その初戦となったオーストラリアA代表戦で、日本は後半途中まで9点をリードする理想の展開。ただ、疲れが見え始めた残り20分から連続トライを許し、2234と悔しい逆転負け。この試合を「人生の新しい一歩」と位置付けていた中尾は、着実にPGを4本決め、日本の全得点22点の半分以上の12点を叩き出しました。試合は敗れましたが、ジェレミー・ジョセフヘッドコーチも「中尾はチームをしっかりリードしてくれた」と合格点の評価でした。

取材に対応する中尾隼太。優しい雰囲気は小学校の先生そのもの?

優しい雰囲気のラガーマン

 試合後の取材は、ようやく選手への「対面取材」が解禁されつつあります。デビュー戦を飾った中尾は「自分の持っている力を出し切ることができて少しほっとした気持ちもあるし、自分のプレーに対する悔しさもある。良い機会を与えてもらえてうれしかった」と穏やかな表情で振り返りました。この日は後半の途中まで66分間出場。スーパーラグビーで戦う猛者揃いのワラビーズとの激闘の直後でも、まるで教壇に立っているかのように話しぶりは丁寧。教職に就いても「中尾先生」とさぞチビッ子に人気だったろうとつい想像してしまう、優しい雰囲気のラガーマンでした。

献身はラグビーの本質

 余談ですが、コンディション不良で23人のメンバー外だった笑わない男稲垣啓太が、試合で使ったタオルを入れた大きなビニール袋を担いで会場から引き上げるのを見かけました。プロ野球やサッカーでは、主力が裏方仕事をするのはあり得ないこと。ピッチに立つ15人、そしてベンチやそれ以外のメンバーも献身の心で支え合うラグビーの本質を見た気がしました。「仲間とともに前へ。」を自然と体現するラグビーの取材現場を、新鮮な気持ちで後にしました。

午後7時開始の秋のナイターは、バックスタンド上段まで超満員

東京・大手町発 マスコミ系働き女子のひとりごと Vol.51

(日刊サン 2022.10.7)

竹下聖(たけしたひじり)

東京生まれ。大学卒業後、東京の某新聞社でスポーツ記者、広告営業として15年間勤務後、2012年〜2014年末まで約3年間ハワイに滞在。帰国後は2016年より、大手町のマスコミ系企業に勤務。趣味はヨガと銭湯巡り。夫と中学生の娘、トイプードルと都内在住。

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