日本における終活は、従来の暗いイメージは遠のき、いまや「終活カフェ」ができ、一般誌や女性誌でも特集されるなど、積極的にメディアでも取り上げられています。一方、家族のあり方が多様化するハワイでは、まだまだ馴染みの薄いその終活について、少しでも多くの方々に興味を持って頂きたい、そんな願いを込めて今年も日刊サンが、ハワイで役立つ終活情報をシリーズでお伝えしていきます。
エンディングノートとは
終活とは決して恐れるようなものではなく、「人生のエンディングを考えることを通じて、自分を見つめ、今をより自分らしく生きる活動」
でもそろそろ準備もしたいが、一言に終活と言っても何から始めればいいのかわからない。そんな方にお勧めなのが、遺族に伝えたい大切な情報を書き記すことができるエンディングノート。銀行情報や葬儀、供養などに関する希望を書き残すのが一般的だが、形式が自由なので、好きなことを書き残せる。余命宣告や延命治療についての方針も書いておくと、いざという時に役立つかもしれない。遺言書と違い法的な効力がないので、気軽に残せるのも魅力だ。何より、ノート一冊あればできるため、お金もかからない。花水さんも、相談に来られる方にお渡しするという。
「何かあったときのために」必要情報を書き残すエンディングノートは、ついギリギリまで待ってしまいがち。「でも、まだ元気だから、まだ若いから、と先延ばしにしてしまうとチャンスを逃してしまうかもしれません。病気になってからでは気持ちも暗くなってしまうし家族も話題に出しづらい。元気なうちにするからこそ終活は楽しめるんです。死は、もし、ではなく必ず平等に訪れるもの。しかも順番にそのときが来るとは限らないので、早めの準備が大切です」と花水さんは語る。
「健康なときだったら、お子さんからもエンディングノートっていうものがあるみたいだよ、と親御さんに切り出しやすい。でも病気になったら、告知を受けたら。段階を踏むごとに、タブーな話題になりがちですよね。だからこそ早めの取り組みが大事なんです」
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エンディングノートは医療や供養、資産情報だけのためものではない。「ちょっと自分史のような面もあって、大切な思い出を書き留めたり、暮石に刻む座右の銘を考えたり。そういう作業をしていくと、自然と今後の自分の方向性みたいなものも見えてくるんです。例えば私は自分の人生を振り返ったときに『感謝』という言葉が浮かんだんですね。座右の銘が感謝なら、もっと感謝して生きていこうと意識する。ご家族を大切にする方なら、より一層家族のことを考える。自分の人生を見直してこれからの生き様を考える上でも、終活とエンディングノートってとても役立つものだと思います」
ハワイ在住者のエンディングノート
ではエンディングノートを書くにあたり、ハワイ在住者が意識しなければならないのは何か。まずは、言葉の問題。
エンディングノートは遺言と異なり、読み手を特定できない、また争いを避けるためにも特定しない方がよい。あくまで緊急時に情報が必要な者が簡単に読めることを想定して書かれるノートなので、海外では読み手が必ずしも日本語を読める者とは限らない。「実際にハワイでは、ご本人は日本語で読み書きできるけど、お子さんやお孫さんはアメリカ育ちで、日本語が理解できないことも多いんです。それではせっかく書いた情報が無駄になってしまうので、誰がノートを発見してもいいように、ハワイ在住者の方にはなるべく両ヶ国語で書くことをお勧めしています」
そして更に重要になってくるのが緊急連絡先。ハワイ在住者にはアメリカ本土や日本に家族が点在している場合も多く、国際結婚なら尚更。国際結婚で国も異なる場合は必ず両家の連絡先を事前に確認し、何年かごとに見直し更新することも忘れずに。
同様に、日本にある有価証券など、家族が見落としそうな情報も必ず記載しておこう。「せっかく生涯かけて築きあげて来た財産も、遺族に知らせなければ最悪の場合休眠口座扱いなどとなり、遺族に残すことができなくなってしまいます。そうならないように、日頃から日本にある細かい資産も把握しておきましょう」
エンディングノートの注意点
エンディングノートを書く時に、迷いがちなのが保管場所だという。遺言書と違い、相続の詳細を記すものではないので、いざという時に見つけやすい場所に収納するのが理想。「大切にしまいすぎて誰も見つけることができなかった、というようなことのないように、テレビの近くやキッチンの引き出しなど、わかりやすい場所にしまっておきましょう」と花水さん。特に緊急時は時間もなく慌ただしい。そんな時でもすぐに家族が発見出来る保管場所であることが重要だ。人に見てもらうためのノートであることを意識して、相続の詳細は遺言書に別途記載することが好ましい。
一方、探しやすい場所にあるということは、逆に言えば空き巣など犯罪者の目にも触れやすいということ。日米共にシニア層を狙った犯罪が増加する今、既存のエンディングノートに銀行口座の詳細を書く欄があっても、防犯上細かい情報は書かない方が安全だと花水さん。「一昔前までは、資産情報は遺族が困らないように細かく書きましょうと言わていました。でも今は個人情報が漏れることの方が危ないので、最低限の情報だけ書くようにお勧めしています」
例えば、米国在住者のソーシャルセキュリティー番号。「下四桁は悪用されるので書くのはやめましょう。最初の番号だけ書いて、下四桁はxxxxと記します。日本のマイナンバーも同様です。」銀行情報やクレジットカード番号も、銀行名や貸し金庫の有無だけで充分だという。「支店名、口座番号やカード番号まで書かずとも、いざという時は遺族が然るべき書類を提出し銀行に問い合わせれば必要な情報は得られます。生命保険も、受取人を巡っての争いを避けるためにも受取人の欄は空白にしておき、証書の保管場所も明記しない方が無難です」
ひと通り情報を書き終えたら、遺族にメッセージを残す事もエンディングノートの大切な役割。わざわざ面と向かっては恥ずかしくて伝えそびれそうな感謝の気持ちも、ノートになら素直に書けそうだ。いつか言おうと思ってもなかなかそういう機会は訪れないもの。懐かしい写真と共に、大切な人との思い出を振り返ってみるのも楽しい作業になりそう。
エンディングノートの習慣を広めよう
書くのに年齢制限も予算もなく、思い立ったときがよいタイミングと言えるエンディングノートの作業。ただ「終活」は、ここ10年程で広まった新しいコンセプト。お子さんがいくらお勧めしても、親世代は「終活」という言葉を聞くと身構えてしまう人も多いという。打開策として、まず自分から始めてみるのも一案。「親子に限らずご夫婦の間でも、どちらか一方は終活に積極的なのにパートナーは興味がないというパターンもよくお見かけします。そんなときはまず自分から。人って一方的に強制されると抵抗するけれど、私も始めたから一緒にどう?って誘われると、じゃあやってみようかなって考えやすいんです。エンディングノートも、私も始めたのよって言われると、じゃあぼくも書いてみようかなってなったりするかもしれません。余生を自分らしく生きられるように、そして愛するご遺族が半信半疑で葬儀の準備などを進めて揉めたりすることのないように、ぜひ今日にでもスタートしてください」
自分の人生を振り返り、感謝し、周囲にも感謝するチャンスを与えてくれるエンディングノート。年明けのこの機会に、是非ご家族で検討されてはいかがだろうか。
(取材・文 シズカ・リード・ウエノ)
(日刊サン 2020.02.01)