毎年訪れていたニューヨークでしたが、今回は3年ぶりのニューヨークとなってしまいました。昨今のコロナ禍が、訪れることを思い留まらせていたのです。

　私の娘の家族がニューヨーク市のクイーンズ地区に住んでいます。今回は孫たちにも会える久しぶりの渡米となりました。ここからイーストリバーを挟んでマンハッタンに沈む夕日の景色はとても美しく、川沿いに公園もあり散歩やジョギングの格好の場所にもなっています。

　さて、私は朝早くこの日は娘のアパートを出て雨の降る中を歩き出しました。目的は朝の一杯のコーヒーをいただくことで、目的地はスターバックスです。10分ほど歩いてようやく着いてみると、店は閉まっていました。開店時間は5時半のはずなのですが、店には営業時間変更を知らせる張り紙もありません。そこで、この店を諦めて、もう一軒の店を目指して、再び暗い雨道を歩き始めました。もう履いている布地の靴は、しっかりと水を含んでいます。

　途中、遠くから男性の叫び声が聞こえてきます。振り向くと、雨の中を自転車に乗った男性が「HELP！HELP!」と大声で叫びながら、一生懸命に自転車を漕いで車道を走っているのです。一台のタクシーが通りかかったのですが、そのタクシーの右側のテール

ランプが点滅させると急停車をしたのです。見ていると、停車したタクシーに男性が乗り込み、そして自転車までも押し込ませていました。サイドドアが閉められると、暗闇の雨の中を一気にタクシーは走り出して行きました。

　私は、雨の中をひたすら自転車で走り叫んでいる男性を、“CRAZY GUY”かと勝手に想像したのですが、タクシードライバーは、この男性を無視することなく車を止め、彼を乗せ自転車まで乗せたのでした。私は、びしょ濡れの男性と親切なタクシードライバーの間で、今どのような会話をしているのだろうと思い巡らしていました。