ボストンから50キロほど東へ行くと、大西洋に突き出たアン岬があります。そこには、グロスター、ロックポートの美しい港町があり、さらに岬を回って北上しニューベリーポートへと向かいます。
久しぶりにこの辺りを訪れてみました。かつて私は夏はマグロ、冬はアマエビ、そして秋から冬から春にかけてアンコウや、ウニ、そしてロブスターの買付に走り回り、カナダまでもよく出かけていたものです。
すでに当時(1990年代)から、これらの漁港は衰退の気配を見せて始めましたが、それでもニシンや、タラ、カレイ、そしてアマエビ、ウニ、延縄や一本釣りではカジキや本マグロ漁をする漁船がグロスター港を埋め尽くしていました。北大西洋漁場の重要な水産基地でしたが、今は数少ない漁船と、数軒の水産工場が残っているだけとなっています。
2000年に放映された“Perfect Storm”という映画をご存じですか? 漁場から帰港途中に大嵐に巻き込まれ遭難してしまう、実話を基にした悲壮な映画ですが、その映画の主舞台になったところがグロスターです。グロスター湾に向かって今も立つ“ザ・フィッシャーメンズ・メモリアル(The Fishermen’s Memorial)”にある「舵を取る男」(Man at the Wheel)の像の前には、海難事故で亡くなった船員たちの名前が刻まれている石碑があります。彼らの名前もそこに見つけることができます。
2000年10月、カジキ漁船“アンドレア・ゲイル号”は、発達中の熱帯性暴風雨を尻目に、遠くカナダのニューファンドランド沖のグランド・バンクを目指し、グロスター港から出港して行ったのです。しかし、そこでの漁は芳しくなく、さらに北上してフレミッシュ・キャップという漁場まで到達すると、今度は大量のカジキが獲れ、船倉を満杯にしました。いよいよグロスター港へ戻る航路へと舵を取りましたが、アンドレア・ゲイル号は再び港に戻ることはありませんでした。
グロスターから20分ほどさらに東へ向かえば、アン岬の最先端にロックポートがあります。ここはすっかりと観光地化されていて、多くの観光客が道沿いに溢れていました。アーティストたちも住んでいて、小さな美術館や画廊もアチラコチラにあります。そして、ニューベリーポートも今は漁業の町から観光の町へとすっかり姿を変わり、町から魚の匂いは消えてしまいました。
こうした所では、ローカルのレストランに入り食事をするのが楽しみの一つにもなります。ここで頂いたのが、茹でたロブスターの剥き身を山盛りに挟んだ“ロブスター・ロール”、貝がいっぱい入った濃厚なニューイングランド風の“クラムチャウダー”、そして地場の揚げたて貝のフライ、また、フレンチフライも芋の味をそのまま楽しめます。ローカルの食材を使った地方料理はとても美味しく懐かしく感じるものでした。