Q. 今年から年金に 課税されているのは何故?
昨年秋にも取り上げたテーマですが、問合せが多いことから取り上げます。
米国に居住し日本の年金を受給している方の年金への課税は、日米租税条約により居住国である米国で納付することになります。年金が日本の銀行口座に振り込まれていれも、米国に住んでいる限り日本ではなく米国で所得税の対象となります。
ところが、日本で年金支給のとき自動的に源泉税が課せられます。その上で米国でも申告をすると、二重課税となってしまいますので、それを避けるために租税条約上の源泉徴収免除手続きを踏めば、日本での源泉所得税が免除されます。
一方、租税条約上の手続きを踏まなくても日本の税法で源泉所得税を徴収されない場合があります。それは年金額が一定の金額以下の場合は源泉徴収されないからです。その一定の年金額が今年の1月から変更となりました。
租税条約上の手続き省略可能な、つまり源泉徴収されない年金額は65歳未満の方は年額72万円以下が60万円以下に、65歳以上の方は年額120万円以下(老齢厚生年金・老齢基礎年金合計)が114万円以下となりました。年金受給者には、最初の年金受給申請時とその後3年ごとに日本年金機構から租税条約上の手続き書類提出の案内が届きますが、年金額がこの基準以下であれば、源泉徴収はされませんので、提出の必要はありません。その代わり「租税条約に関する申立書」を提出します。この省略によりForm6166の作成費用$85と手続きの手間が節約になります。
ここでよく誤解されるのは、年金額がそれぞれ60万円以下、114万円以下であれば米国での所得の申告をする必要がないと思われてしまうことです。源泉徴収課税基準はあくまでも日本の税法上のことで、米国の所得の申告とは関係ありませんのでご注意ください。
今回の改正により年金額が65歳未満の場合60万円超、65歳以上の場合は114万円超の方は今後あらたに源泉徴収されますので租税条約上の源泉徴収免除手続きを踏んで、源泉徴収を避ける必要があります。
ただし、①65歳からは源泉課税基準が114万円に増加する②65歳から老齢基礎年金(国民年金)の支給が開始される③Form6166の取得に85ドルがかかる等考慮してください。年金額によっては、免税手続きを取ることなく課税されるままにしておいた方がお得なケースもありますので、注意が必要です。
例えば現在63歳で年金額が62万円の方の場合、今後は62万円-60万円=2万円となり2万円に20%が課税され年間で4千円が源泉徴収されることになります。今後2年間で8千円が源泉されます。65歳からは老齢基礎年金の支給が始まりますのでその点は注意する必要がありますが、65歳以降の年金額が114万円以下であればそれ以降の源泉徴収はありません。そうであれば63歳の時にIRSからForm6166を85ドル支払ってまで源泉徴収免除手続をとるのではなく、源泉徴収されるままにしておいた方が良いケースと言えます。
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市川俊治
民間企業勤務後、外務省改革の一環として始まった領事シニアボランティア制度の第1期生としてNY更にSF総領事館に合計6年間勤務。その官と民の経験・知識を基に海外在住者の年金・国籍・老後の日本帰国の問題のアドバイスを行っている。