私は時々、60年ほど前の小学校での光景を時々思い出し、小学校の同級生が食べていた弁当が目に浮かぶことがあります。その頃の私の愛知県の故郷では、農家の子供と勤め人の子供(町の子)がクラスでほぼ半分づつくらいで構成されていて、農家の子の弁当か、町の子のかは見た目で違ってました。農家の子は大きな弁当箱にイモや大根など野菜の煮物が中心で、一方の町の子の弁当はウインナーソーセージとか卵焼きなどがきれいに詰められた幾分小さめの弁当箱でした。
私はその当時、家では食べられないケチャップのかかった卵焼きや、ソーセージやハンバーガーが食べられる子が羨ましかったです。私が小学生の頃は戦争が終わって、十年少し経った頃(昭和30年半ば)で、「イモやゴボウなど栄養のない物ばかり食べてたので日本は負けた」ってよく大人が言ってました。私自身こうしたイモやゴボウなどの弁当を好ましく思っていませんでした。
ところが、日本でも肉や乳製品が食べられ洋風化しつつあった60年代に、専門家の間で「食物繊維」なる言葉をいう人が現れ、長い間「食べ物のカス」と思われていた食物繊維が大腸がんを減らすとか、この食物繊維は小腸で消化・吸収されず、大腸まで達するので便秘を予防するなどの整腸効果があると指摘され出しました。その他、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロールの数値を低下させるとも言われました。伝統的な日本食が栄養価では劣っているかもしれないけど、ちゃんと体に必要な物を摂取していたのです。昔の人は栄養とかカロリーという言葉は知らなかったでしょうが、土地で得られる食べ物から、体に必要とされるものを体験から知っていたのでしょう。
帰国するとすぐ食べる物
私は日本へ帰国すると最初の日はたいていビジネスホテルに宿泊します。ホテルではブッフェ式の朝食が多く、暖かいごはんに海苔、焼き魚や切干大根、納豆、ひじきや酢の物など日本食がいろいろ食べられます。他の日本人の宿泊客を見ていると(当たり前ですが)納豆とか切干大根などより、トースト、マフィン、ペイストリーやオムレツ、ハム、ソーセージやコーヒー、フルーツジュースと洋風のものを食べています。
人は年齢とともに「食べ物の好み」が変わっていくように思います。私の場合、若い時にはよく食べた揚げ物など洋食より、年齢が行くにつれて、根菜の煮物や、昔は無理に食べさせられた焼き魚、煮魚、酢の物などを恋しく思うようになりました。これは医者や専門家がすすめるからというのではなく、漠然と自然の恵みの根菜類のほうが肉などより「お腹にやさしい」って感じます。今度日本へ行ったら…何を食べるか? そんなことを思っている今日この頃です。
とどけMahalo! アメリカ本土便り No.137
大井貞二(おおいさだじ)
1988年にハワイに移住。地元の私立校で日本語を教える。その後、ハワイ大学大学院を経て、ハワイパシフック大学(HPU)にて世界中からやってくる学生に日本語を教え、最近退職。現在アメリカ本土に居住。
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