ひと昔前までは、眉唾物とされていた“マルチバース理論”。宇宙はひとつではなく、複数存在するというれっきとした物理学の一説であり、今ではむしろそう考えた方が様々な宇宙の謎について辻褄が合うらしい。
7歳の少年エヴァンは、授業の課題で描いた“将来の夢”の絵せいで病院に連れて行かれた。なぜなら、そこには刃物を持った男と、血だらけで倒れている男という物騒な光景が描写されていたからだ。さらに本人は描いた記憶が無いと言い、脳の検査を受けるも異常は見当たらない。医者は、毎日の行動を日記に書き経過観察をするようアドバイスをする。それからも不可解な記憶障害は続いたが、大学生になり順風満帆な生活を送っていた。数年ぶりに会った幼馴染の女性ケイリーが、その晩に自殺するまでは。
「人生は選択の連続である」(「ハムレット」)。シェイクスピアの名言が痛いほど胸に刺さり、日々の何気ない選択の積み重ねが現在の自分自身なのだと思い知らされる。エヴァンは過去を修正できる能力を持ち、幾度となく未来を変える。自分のせいで失った大切な人を救うため…それなのに、1人を救うと別の人が、さらにその人を救おうとするとまた別の人が不幸に、と延々と悪夢を繰り返す。どう行動し、何を選択するのが正解なのか?人生において、そんな風に悩む場面は山ほどある。もしあの時―と選ばなかった選択肢の先にある世界が一体どんなものだろうと、自分に当てはめて想像するのも楽しみ方のひとつだ。行き来することは不可能と言われているマルチバース、無限に存在する別の宇宙では、人生の分岐点で別の道を選んだ自分が全く別の生き方をしているのかも知れない。
蝶の羽ばたきのように些細な行動が結果的に重大な影響を引き起こす、というカオス理論がタイトルの元だ。たった一瞬の行いが未来の何かに結びつくと考えると、これから起こる出来事に少しわくわくもする。そういえば子供の頃の夢は科学者で、全然違うことをしているなぁと思いながら。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/特に修正したい過去はないけれど、お酒の飲みすぎで失くした記憶と物は取り返したいかもと思いました。
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