気力がわかない、怠い、食欲がない―ああ、五月病か。四月が新年度である日本特有の精神的な落ち込みを指し、海外ではクリスマスや新年を終えた一月に似たような症例が見られるという。
メキシコのユカタン半島で暮らす気弱な女子高生のミアは、同級生にいじめられ、義理の姉妹であるサーシャともまだぎこちない間柄。それを察した父の計らいで、二人が仲良くなれるよう週末にグラスボートでのサメの鑑賞ツアーを提案するが、偶然いじめの主犯格と鉢合わせしてしまう。落胆していると友人のニコールとアレクサが現れ、観光客が来ないようなとびきりのスポットがある、と誘われる。そこは美しい泉で、マヤの古代都市が沈んでいた。はしゃいで次々と飛び込む四人だったが、実はその奥には巨大で凶暴なサメが潜んでおり…。
ダイビング、古代遺跡、そしてホホジロザメが登場するなんて大好物要素がてんこ盛りでロマンチック!と思うのはマイノリティかも知れない。それ故に、このストーリーを思いついた脚本家に心から感謝。もちろん、一番の見所は巨大サメとの死闘だとはわかっているものの、海底に沈んだ遺跡を探索するというシチュエーション自体が素晴らしくワクワクした。以前訪れた現地には劇中にそっくりのセノーテと呼ばれる泉があり、マヤ文明の時代には生贄を投げ込んでいたそう。サメに襲われるにはまさに絶好の舞台というわけだ。素人がフィンもカレントフックもガイドもなしでケイヴ・ダイビングをするなんて無謀すぎる、という突っ込みはさておき、閉所恐怖症には辛く、見ていて息が詰まる臨場感も、ホホジロザメが真横をすり抜けていく際のリアリティも抜群。最後まで気が抜けない、サービス精神たっぷりのスリラー作品だった。
見終えたら久しく行けていない海とダイビングが恋しくなり、代わりに水族館へ行った。サメはサメでも小さなネコザメがおり、そのエラ、綺麗な瞳、可愛いらしい口元をじっくり堪能したら、五月病で憂鬱な気持ちが少し和らいだような気がした。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/パラオでダイビング中、強烈なカレントに入りフックに捕まって耐えましたが“もうダメかも…”と怖かったです。
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