日本では三年ぶりで行動制限のないゴールデンウィークが到来、海外はまだハードルが高いものの国内各地が賑わった模様。と、昨今では気軽に旅行出来るが、戦後間もなくはテレビの普及率も低く、映画館で余暇を過ごす人も多かった。この時期に興行収入が良かったことから、映画業界が「黄金の週だ!」とゴールデンウィークと名付けたそう。連休中、インドア派の知人におすすめの映画を聞かれて答えたのが本作である。
舞台はロサンゼルス。朝のダイナーでガラの悪そうなカップルが今まさに強盗を働こうとしているところから物語は動き出す。そこから、ギャングのボスであるマーセルスと、彼に仕える部下で人殺しの際に必ず聖書の一節を暗唱するジュールス、用を足しに行く度に重大な事件が起こる不運なヴィンセント。ボスの女房でコカイン中毒のミア、八百長を持ちかけられた落ち目のボクサー・ブッチなど、これでもかとアクの強い登場人物たちが巻き起こす騒動を追いかけていくのだが、彼らの運命は奇妙に交差していき―。
タランティーノ監督の皮肉のきいたユーモアとシュールなセンスには舌を巻く。お気に入りは、ジョン・トラボルタ演じるヴィンセントだ。ボスの女房役ユマ・サーマンと“サタデー・ナイト・フィーバー”を髣髴とさせるツイストダンスを披露するシーンは見所で、キリリとした表情と本気の踊りはさすがだが、彼の不運さには気の毒を通り越して愛おしさすら湧く。他の登場人物たちもダメな大人ではあるが「え、そんなところで?」と意外な場面で人情を発揮するのが魅力で、笑いのツボでもある。題名の“パルプ・フィクション”には、安いパルプ紙で発行された下らない話だよ、というメッセージが込められており、それを前提に見るとなるほどと思えるだろう。
ちなみに自身は日本でいうところの“五月病”なのか気分が塞ぎこみ、ゴールデンウィークならぬ“ごろ寝ウィーク”に。人混みも苦手なことだし後悔はないが、回復したらどこか行こうと考えながら療養中。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/5月は苦手です。可愛がってくれた祖父や親戚の命日もある上、悲しいニュースも多くて滅入ります。
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