「“ユウゼン”が見たい!」。着物の友禅染めに似た柄で、八丈島や小笠原諸島など日本の限られた海域にしかいないチョウチョウウオの一種だ。そんな珍しい魚が見たくてダイビングをしに行ったのが七年前。海の青さや、荒らされていない島の大自然をもう一度味わいたいと再訪した。
梅雨時で天候が悪く、着陸出来なければ羽田に引き返すという趣旨のアナウンスが流れヒヤヒヤしながら乗りつつも、無事到着。海は大荒れで入れないため何か代案を…温泉だ!近年噴火は起きていないものの、ここは活火山の島。ヤシの木が生えハイビスカスが咲く南国だが、山手線内とほぼ同じ面積の島に温泉が七ヵ所もある。個人的には、ジャングルの中にあり滝も見られる秘湯『裏見ヶ滝温泉』が好み。屋根付きなので大雨も気にならず、のんびりと湯に浸かれた。
さて、アオゼ、ウメイロ、コマス、オナガ…と聞いてピンときたなら相当魚に詳しい方。島の近海で獲れる魚で本州ではまず目にする機会がなく、スーパーでは刺身や醤油漬けにして『島寿司』としても販売しており、甘めのシャリにワサビではなく黄色いカラシが塗られている。いやいやこれはミスマッチでしょう、と思ったが一口食べたらすっかり虜に。他にも、明日葉の天ぷらや蕎麦、くさや(魚の干物)、島らっきょうなど美味しい郷土料理が数多くあり、それらがまた島で作られた焼酎と本当に良く合うのだ。
滞在中、波が穏やかな日は『底土ビーチ』でシュノーケリングができウミガメに出会えた。高確率でいるらしく、こんなに簡単に近くで見られるなんて、と感動するはず。天気は曇りがちだったが、日本とは思えない青い海は健在だった。
と、十分魅力が詰まった島だが、光害が少ないので天の川も肉眼で見え、夜になると薄緑色に発光する不思議なキノコが生息し、ネット上では日本三大廃墟のひとつとも言われる巨大なホテルもあり、見所がたくさん。沖縄も好きだが、東京から一時間でこんな素敵な離島があることをぜひ知っていただければと思う。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/気づけば今年ももう半分。コロナ禍以降のこの2年間、1年分でカウントしたいです。
(日刊サン 2021.06.11)